本書は、世界有数の頭脳スポーツ・チェスに魅入られた4人の子どもたちが、さまざまな出会いを経て、チェスの日本一を決める大会で邂逅する——という青春群像小説、第12回ポプラ社小説新人賞を、選考委員の満場一致で受賞した作品です。新人作家のデビュー作ながら、卓越したストーリーテリングと筆致、迸るような熱量の伝わってくる意欲作で、俳優の岡田将生さんや南沢奈央さんをはじめ、作家の宮内悠介さんや綾崎隼さん、映画監督の三島有紀子さんなど各界のさまざまな方々から、絶賛・応援の声を多数いただきました。

本書に登場する子どもたちの境遇はさまざまです。難病のため小児病棟に入院している透。夢と現実の間で揺れる名門進学校に通う晴紀。母親と折り合いの悪い全盲の少女・冴理。少年院を出たのち、アメリカにわたった天涯孤独な青年・釣崎。彼らに共通しているのはひとつ、チェスを指すことが、「自分の人生を生きる」ことに繋がっていること。ありったけの情熱を傾けられる対象を見つけだし、全身全霊をかけてその道を極めようとする子どもたちの成長の軌跡の、なんてまばゆく、力強く、可能性に満ちていることか。

将棋がさせなくても『三月のライオン』に夢中になったように、ピアノが弾けなくても『蜜蜂と遠雷』に心揺さぶられたように。チェスを知らなくとも、スリリングな展開に手に汗握り、登場人物たちの生きざまに問答無用で心を持っていかれました。

もう何度読んだかわからないのに、文庫ゲラを読みながら、クライマックスのあるシーンで涙が溢れました。物語を読む醍醐味が、ここにあります。ままならない世界に歩きだしていく若い世代をはじめ、ぜひたくさんの方に手に取っていただきたい作品です。