願わくば海の底で
額賀澪
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刊行日 2025/02/19 | 掲載終了日 2025/02/19
ハッシュタグ:#願わくば海の底で #NetGalleyJP
内容紹介
2011 年、通っていた宮城県沿岸部のとある⾼校を卒業し、⼤学進学までの猶予期間。そんな何者でもない春のある⽇、彼は私たちの前から姿を消した。これは⼤切なものほど失くしてしまう悪癖に悩まされ、それでも飄々と振る舞う⻘年が歩んだ、⾼校⽣活3 年間の軌跡を辿りなおす物語。
2011 年、通っていた宮城県沿岸部のとある⾼校を卒業し、⼤学進学までの猶予期間。そんな何者でもない春のある⽇、彼は私たちの前から姿を消した。これは⼤切なものほど失くしてしまう悪癖に悩まされ、それでも飄々と振る舞う⻘年が歩んだ、⾼校⽣活3 年間の軌跡を辿りなおす物語。
出版社からの備考・コメント
・多くのレビューをお待ちしておりますが、物語の核心をつくような、所謂「ネタバレ」はお控えください。
・ネタバレ行為はネットギャリーのみならず、読書メーター、ブクログ、Twitter 等の多くの方が目にする場でも同様にお控えいただきますよう、よろしくお願い申し上げます。
・本作は校了前の大切なゲラデータを著訳者よりご提供いただいた上で公開をしています。本作の刊行を楽しみにお待ちいただいている、多くの読者のためにも、ご理解、ご協力のほど何卒よろしくお願い申し上げます。
・多くのリクエストをお待ちしておりますが、過去のフィードバック状況やレビュー内容からリクエストをお断りする場合がございます。予めご了承ください。
・いただいたコメントは帯やPOP、X等SNSでのご紹介など、弊社販促活動に使用する場合がございます。予めご了承ください。
おすすめコメント
担当編集より
物語の核心に関係するため具体的な言及は避けさせていただきますが、本作は東日本大震災に触れた内容となっております。日本全国のみならず、世界にも衝撃が走ったあの震災から早13年、リアルタイムで経験した身からするとあの日の事は決して忘れられない記憶になっているかと思いますが、幼少期に経験した現在の中学生・高校生にとってはその記憶も薄れつつあるのではないかと想像いたします。
本作を通してあの日の出来事に接することで記憶を継承していけたらと思うと共に、一人の人間が自身に向き合う物語としての面白さに触れていただくことで、若い世代に小説を読む楽しさをお伝えできたらと考えております。
出版情報
発行形態 | ソフトカバー |
ISBN | 9784488029203 |
本体価格 | ¥1,600 (JPY) |
ページ数 | 224 |
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NetGalley会員レビュー
途中までは、合間にちょっとした謎解きをはさんだ、菅原晋也という少年とその周辺の青春もののように読める。ちょっと風変わりで、うっかりものの、思い返すとそんな後輩が、クラスメイトが、生徒が、先輩がいたなぁと、今どうしてるんだろうと懐かしく思い返すような人物像で語られます。けれど、最後まで読むと、彼や、彼と過ごした時間を、ただの青春の1ページとしては扱いきれない、強い印象を残した存在であることに気づかされました。一人ひとりの命や、何気ない日常の尊さをあらためて感じます。
あの地震から13年。帯や宣伝の前情報なしに読み始めめたものの、平和な高校生の日常、そして美しい海の描写に切ない気持ちにさせられました。読み終わってすぐに、もう一度菅原に会いたくなります。あの瞬間、あの場面、どんなことを考えていたのか、種明かしのスピンオフが書かれないかなと期待します。
贈られた物を必ず忘れていくはた迷惑な菅原。1年ごとの短編から、そんな彼の人柄、なぜ疎まれないかが分かってくる。
でも、そんな彼でも運命には逆らえなかった。ただ、その結末は彼だけの事ではない。それだけは決して忘れてはならない。
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『ガラスの向こうで』
色彩のイメージあふれるオープニングから引き込まれた。
3年生のしっかり者岩渕と、贈られた物だけ忘れていく名人、1年生の菅原との不思議な関係。恋愛とは少し違う。これは大いなる庇護。菅原のスマホの画面を眺める彼女の慈悲の微笑みが目に浮かぶようだった。
そしてエンディングも色彩のイメージが。美術部部長たる岩渕が大人になっても鮮明に覚えている色。
『炭酸水の舞う中で』
キラキラ輝く中でただ戸惑うだけの菅原が、らしかった。それを起こした鶉橋の自由人たるその軽やかな動きが目に残るようだった。ただ、その時の彼女の表情までは気づけなかった。
そこからの意外な展開。必要以上に穏やかでお人好しの菅原に、こんなに鋭い面があったとは。
でもやっぱり、贈られた物だけ忘れていく名人だという所に落ち着くところが菅原らしい。ただ、今回の忘れ物はちょっと許し難いと思った。本郷も同じ思いのはずなのにそれを受け入れてしまうのは、菅原の人徳なんだろうな。
『黄色い花の下で』
そんな菅原も3年生。そして、自分の才能に明確な自覚があったとは。菅原が初めて見せる今までとは違うイメージだった。
その菅原の大作は花の絵。そう、彼の心をずっと縛り付けてきた「花束」じゃない。それに対する早坂の指摘は、卑屈な彼の生き様を写したもの。それをさらりとかわしたうえで言った、菅原の言葉。早坂の顔を見返さなかったのは自信がないのではなく、きっと菅原の優しさから。首を小さく振りながら言ったのは、本心からのこの言葉の底に、この3年間の後悔が隠されていたからだ。きっと。
『空っぽのロッカーで』
そんなことがあっていいのだろうか。許されるのだろうか。ただただ、それだけだった。
『願わくば海の底で』
高校を卒業する菅原。相変わらずの贈られた物だけ忘れていく名人菅原。同級生や後輩に苛立ちを残しながら、本人も後悔の一片は見せながらも、至って飄々。でも、その背景に北陸の海の匂いが漂い続けるのが、読んでいて怖くて仕方がなかった。
そして5年後の本郷と小野寺、三浦。みな、震災という過去から逃れることができない。時に「行方不明」という言葉から。それは「決定された事実」を表す言葉ではないから。〈もしかしたら〉という想いを漂わせているから。納得しているつもりでも。
けれども、その想いを捨てなければならない時が来た。そう、真実が語られ始める。
『禱』
彼は何年も前に、「いなくなった人間はどんどん美化される」と言った。でも、菅原の高校3年間は、たくさんの人達から美化されることなく彼に伝えられたと信じる。彼の人柄はあの通りで、最後の決断もその通りだったと信じる。
そして、これからも続いていくであろう、残された者達による3月11日のこの行為が、海の底の彼や彼らに必ず伝わり、安ぎをもたらすと信じる。
だからこそ、この日の事を忘れてはならないと、改めて自分に言い聞かせた。
あまり前情報を入れずに読み進めていたのですが、途中で「ああ、そういうことなのか・・・」と。
お話の進め方が巧みで、特に、最後の「語り手」が誰だか明かされるあたり、グッと来ました。
丁寧に練られた上質な作品だと思います。
若い世代を中心に、ぜひ多くの方々に読んでいただきたいです。
大切なものを大事に出来ない、そんな薄情な自分に悩む菅原の3年間の高校生活を、先輩・級友・後輩など視点を変えて追憶する。何気ない日常と、少しのミステリと、輝かしい未来と―――東北の街を襲った絶対的な出来事を通して、今を見詰め直すキッカケを与えてくれる作品。
変人菅原の青春物語、ちょっと鋭い菅原の推理物語、菅原の住む街を襲った震災物語、緩やかな流れの中で作品が何度も色を変えていく。薄っすら漂う何かを感じながらも、まさか!という意外性がとても強かった。その展開が、突如として襲い掛かった地震を如実に表しているようで、どうする事も出来ない絶望に飲み込まれた。
目を瞑って、向き合って、たまに逸らして、また見詰めて―――消える事のない痛みが生命の大切さを何度も訓えてくれる。忘れてはならないものが詰め込まれた切実な物語。
著者の作品というだけで読み始めたので覚悟していなく、内容が内容だけに切なかった。
菅原という一見薄情にも思える少年を中心に語られ、謎解き要素もあるけれど話の着地点があれだったとは想像していなかった。
淡々としながらも深みのある文章でした。
読み始めは着地点が見えず、時の流れとともに語り手が変わり、
気付くと「藤原」という一人の少年の不在が大きくのしかかってくる。
結びの言葉のないタイトルは、誰の声で、どう続くのか。
読み手によってさまざまに変わるのだろう余白の残し方に心を揺らされる。
もう2年もすると3.11のときに生まれてさえいなかった子たちが高校生になる。
だから、まだまだ「子ども」と呼ばれる存在さえも飲み込んだあの地震や津波のことなど、
私たちにとっての戦争くらい遠いものにしか感じられないかもしれない。
けれど、どれだけ時間が経ったとしても私たちは記憶をつないでいかなくてはならないし、
そのためには「フィクション」というものが果たせる役割も大きい。
…そんなことを感じさせてくれる、静かだけれど、力強い存在感のある作品でした。