汽水域
岩井圭也
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刊行日 2025/02/17 | 掲載終了日 未設定
ハッシュタグ:#汽水域 #NetGalleyJP
内容紹介
東京都江東区亀戸の路上で、死傷者七名が負傷を出した無差別殺人事件が勃発。
現行犯逮捕されたのは深瀬礼司 容疑者、三十五歳。
調べに対し深瀬容疑者は「死刑になりたい」などと供述しているという。
直木賞候補の著者が放つ、慟哭の社会派サスペンス
事件記者の安田賢太郎は、週刊誌からの依頼で死傷者七名を出した殺傷事件の犯人の素顔を追うことに。
逮捕された三十五歳無職の深瀬礼司という男は「死刑になりたい」と供述。犯人への非難と中傷が世間に溢れ返る中、安田は深瀬の本心に近づくため、彼の過去を知る者達へのインタビューを重ねていく。やがて見えてきた、深瀬の社会人時代、青年時代、少年時代の壮絶な体験。次第に深瀬に心を寄せていく安田だが、安田の書いた記事によって最悪の事態が起こり――。
――「ある意味納得ではありますよ。ヤバそうなやつやったから」
――「犯人には、殺意があったんでしょうか?」
――「もしも理由があるとしたら、それはあいつ一人に背負わせたらあかんのちゃいますか」
――「どうせ刺すならわたしを刺してほしかった」
●著者プロフィール
岩井圭也(いわいけいや)
1987年生まれ、大阪府出身。北海道大学大学院農学院修了。2018年『永遠についての証明』で第9回野性時代フロンティア文学賞を受賞しデビュー。23年『最後の鑑定人』で第76回日本推理作家協会賞長編および連作短編集部門候補、『完全なる白銀』で第36回山本周五郎賞候補。24年『楽園の犬』で第77回日本推理作家協会賞長編および連作短編集部門候補。同年『われは熊楠』で第171回直木賞候補。他の著書に『文身』『科捜研の砦』『舞台には誰もいない』『夜更けより静かな場所』、「横浜ネイバーズ」シリーズなどがある。
出版社からの備考・コメント
※書影は仮のものです。
※ゲラは校了の前のデータにつき、修正が入る可能性がございます。
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出版情報
発行形態 | ソフトカバー |
ISBN | 9784575247985 |
本体価格 | ¥1,800 (JPY) |
ページ数 | 360 |
閲覧オプション
NetGalley会員レビュー
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無差別大量殺人事件、というとすぐに現実に起きたいくつかの事件を思い出します。この小説の中では、死傷者七名、うち三名が死亡する事件の犯人である深瀬がどんな人物であるのかをフリーライターの安田が取材し、事件に至るまでの犯人の実像に迫ってゆく様子が書かれていました。合間にライターのプライベートが書かれ、妻と離婚した後の息子との関係性、ライター自身の背景なども物語に絡んで、ライターの思考を通して問題提起と、深瀬のような犯罪を犯す人物の抑止にひとつの答えを出すラストに繋がっていました。安田がたどり着いた真相を知ると、もしかしたらどこかで防げた事件だったのかもしれないと思いました。
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正しいことを伝えるとは何かというのをずっと考えながら読んでいた。昨今の報道でも被害者側の話ばかりが取り上げられ、加害者の動機やきっかけが見えて来ず同じ方面ばかりの取り上げられ方が嫌になることが何度もあった。安田の事件へのアプローチは途中真面目すぎる故ヒヤヒヤしたが、流れ作業としてではなく真摯に向き合う姿に魅了された。
安田が深澤と重ね合わせて見てしまうシーンは私が昔から抱えている問題に近しいものがあるので読むのに緊張した。特に「本当は、父を殺したかったのではなく、父と決別したかったのだと思います」と手紙をしたためていたところにハッとさせられた。子どもの頃は社会経験がないから視野が狭い、故に抱えている感情を誤って解釈してしまうことがあると安田に教えてもらいました。
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汽水:海水と淡水の混ざった水。
誰もが常に、善悪の汽水域を漂っている。
100%の善や悪に浸っている人間はいない。バランスをとって生きている。
どこにでもいる一般人が無差別殺傷犯になり得る…。
死刑になりたいと事件を起こした深瀬をフリーの事件記者安田が取材する。
事件解決に向けたミステリではなく、動機や心情をに迫る展開に安田の元妻や7歳の息子、仕事先、取材対象者を通して安田の疑問や葛藤が描かれるので、いわゆる“大量殺傷事件”小説とは切り口が異なるので、奥行きがあり、とても読み応えがあった。
深瀬にこだわるのかを何度も自問する安田。
挿入される作文が効果的。ラストに驚きつつも、フィクションを超越したものを感じた。
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フリー記者の安田が取材を任されたのは、路上での無差別殺傷事件。
犯人の深瀬は、死刑になりたいから事件を起こしたという。
深瀬にかかわりのあった人たちへのインタビューを通し
安田は、深瀬の本心に迫ろうとする。
安田自身の生い立ちや家族関係
記者同士の野心や駆け引き
途中、様々な要素を絡めながら、物語は進んでいって…
最後は、一気読みでした。
様々な「社会病理」が結びついた先にある悲劇。
現代社会の問題を垣間見せつつ、でもその中に、かすかな灯も残されていて
陰惨な事件を題材にしていても、読後感は悪くない作品です。
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海水と淡水が混じり合う汽水域のような場所で、私たちは常に泳いでいるのだろう。
何かのきっかけで、流されていく。そして、流されてしまえば元の場所に戻ることは難しい。
その危うさは誰もが持っている。
流されてしまう前に、溺れてしまう前に、そこに踏みとどまらせる何かが必ずあると思い出せますように。そんな祈りのような願いを最後に感じました。
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無差別殺傷事件の犯人の「死刑になりたい」と語った真意はどこにあるのか。
記者・安田の事件への拘りが彼の過去となにか関係があるのか。
その想いは、読み進めながら不安と共に濃くなっていった。
人の命を無差別に奪った犯人に同情はできない。
しかし、決して罪を犯さないと言い切れないのが人間だ。
自分と彼と何が違うというのか。
少しの小さな違いで、その場にいたのは自分かもしれないという戸惑いと恐れの感情の揺れが胸に迫ってきました。
孤独の中で、それでも誰かが見てくれていると信じることができたなら流されることはない。
祈りのようなラストに涙が滲んでしまった。
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無差別殺傷事件を記者が追う。
客観性が大前提にある記者において、客観と主観がないまぜになっていく様子がつぶさに描かれていく。言い換えれば客観を出力するための主観の吐露かとも思えてしまうのが報道の難しさであり側面であろう。また一つの真実にもさまざまな側面(主観)を見せつけるという事実を突きつけてくるようだ。
また所謂「無敵の人」の内面を探る事の意義を説明しているかのようにも見えるが、そこが誇りでもあり傲慢にも見えてしまうのは、世情の倫理に左右されることを痛感した。
グラデーションの中に生きていることを実感させられる逸品。
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面白かった!!!
というと軽薄すぎますが…、世間を相手にした仕事の難しさに、いろいろ考えてしまいました。
事件が起きたとき、被害者や加害者について騒ぎ立てるマスコミには、憤りを感じることがあります。
主人公は、無差別殺人事件を追うフリーの事件記者・安田賢太郎。
どうにか新しい情報を引き出そうとするがむしゃらさに、息子に対して父親の自覚ゼロな態度もあわさって、やっぱり記者ってこうなの?と腹立たしい…!
主人公に辟易しながら読むって、なかなかないかも…?
でも、安田がどこまで殺人犯の心情に迫れるのか、いつか犯人の言葉が引き出せるのか、そして安田の取材に私は納得できるのか、一気に読んでしまいました。
「死刑になりたかった」という犯人をめぐって、被害者側も加害者側もマスコミも傍観者も、保身や自己主張に必死で、正しさってどこにあるんだろうとわからなくなる。
犯人は本当に私たちとは異なる存在なのか。
安田がこの事件を追わずにはいられなかったのはなぜなのか。
最後、意外にも、このどうしようもない主人公がヒーローのように思える瞬間があって、社会を知ることとそのためのジャーナリズムはたしかに必要なんだと感じました。
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まずタイトルに惹かれた。海水と淡水が混じり合う汽水域。読み終えた今、このタイトルが切なくグッと心に沁みてくる。無差別殺傷事件を起こし「死刑になりたかった」と言った犯人の男。その事件を取材するフリーの雑誌記者・安田の動向の詳細な描写と、彼の信条として伝えようとする事件の背景や真相は、好き勝手な犯人像を無責任に拡散するネット民や自社利益重視のメディアとは対極にあり、自らを曝け出して犯人と対峙するうちに芽生えた"紙一重"との思いが、彼の仕事の正しさを期せずして証明している。失うものが無い"無敵の人"を作らないために、我々にできることは…?SNS社会に問う今読むべき1冊!
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路上無差別殺人事件の犯人の動機は「死刑になりたいから」。事件記者の安田はそこに至るまでを探る。様々な人々の思惑を不器用にすり抜けながら、真相、この言葉の意味に迫っていく。
今の人と社会の有様を鋭く抉る、骨太の社会派サスペンス。
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深瀬の動機は「死刑になりたい」。それはあまりにも受動的な理由。究極の主体的行動と言える殺人。本当にそれが無差別にこの殺人を行う動機なのか?
その疑問がずっと根底を流れていく。
安田が探っていく深瀬の過去は、その行為に結びつくとは思えないもの。父からDVを受け高校を中退せざるを得なかったものの、勤勉で正義感が強かった。それから失意の下降線を辿っていく。なぜそんな彼が、このような動機からここまでの行為に? 読みながら首を傾げた。
安田の調査の過程で、家族が殺された者たちの慟哭だけでなく、表面的な報道や無責任なSNSの投稿が今の社会を写し出していく。更に、ジャーナリスムに関わる者たちの明と暗、奢りと衰退さえも。
そして、拘置所でやっと深瀬に面会できた安田は、「死刑になりたい」という言葉の更に奥底に真の動機があることを見抜く。それは、非常に個人的なもの。それを実現すふために、このような事件を引き起こすとは。信じられない思いだった。
更に〝幕間劇〟が誰の過去であるか分かった時、だれもが深瀬になりえることに気づいてゾッとした。
そしてエピローグ。「汽水域」というタイトルが人を的確に示していることが、この幕間劇があるからこそ、より説得力を高めていた。そして、父親らしことは何一つしてこなかった安田が息子に示す態度、それに人と言う存在への希望を見られた気がした。
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「死刑になりたい」と無差別殺傷事件を起こした35歳の男の素顔に迫ろうと、取材を重ねるフリーライターの安田。犯行の背景に潜むいくつもの歪みを、安田なりの使命感をもって明らかにしていく、身につまされる社会派サスペンス。
「死刑」が利用される事件が実際にも起きているからこそ、死刑制度の意味というものを今一度考えさせられた。死刑でなくとも、捕まるという事を利用する、犯罪に救いを求める人たちの危うさ。時代に沿ったものから根深いものまで、社会の悪循環が凝縮された展開に全く違和感がなく、それがまた本当に恐ろしかった。良くも悪くも、人は何にでもなれてしまう。どちらに転ぶのか、安田が見てきた世界を、この作品に込められたメッセージを、息を呑んで読み耽った。
起こった事はもう過去の一部で、その歴史を知る事が未来に繋がると思う反面、過去には出来ない人たちもいる。ジャーナリズムのあり方を、報道する側の視点から真摯に描いた衝撃的な作品。
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安田賢太郎は殺傷事件の犯人、深瀬礼司の記事を書くべくして書いたんだと物語を読んで感じました。
もしかしたら自分だったのかもしれない。
報じられる内容でしか第三者は知ることが出来ない。一度植え付けられた印象はなかなか変える事はできないと改めて
感じました。またその人の環境によって状況によって感じ方は当然ですけど、違う。
人を殺めることは決して許されない。でもそこに至るまでの経過の中で何があったのか、知る権利も確かにあるのかもしれないと
安田の言葉から感じました。
深瀬礼司という人物は全てが間違っていたわけではない。決して特別な人間ではない。周りの人間がもう少し違っていたら、
安田賢太郎になれたのかもしれない。
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奇しくも、読み始めたのとほぼ同時に長野での無差別殺傷事件が起こり、現実の事件と混同しながら読むことになりました。このような事件を起こすものは人格に問題がある異常者に違いないく、その心情など理解できるわけがないわかりたくもないと考えるのですが‥。実のところそうではなくては困るという感情があります。生まれついての異常者などというものは存在せず、ただその置かれた環境により本人にはどうしようもない道に進んでしまうことがある。確かに運に左右されてしまう。それがわかっているだけにいつ誰がなんなら自分が大きく間違った方向に進んでしまう可能性は全くないと言えないことに底しれぬ恐怖を感じるのです。そういうことをきちんと受け止めるために報道は必要なのだと思います。安田が取材を通して出会った犯人の知人たちのやりとりはリアルなものでした。よく知りもしないのに無責任に相手を決めつける発言、そうではなく本来の彼の人間性を知ってほしいと訴える発言、とてもたくさんのことを考えさせてくれる作品でした
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ゲラ読みさせていただき、ありがとうございました。
なかなかなクズっぷりの主人公に感情移入できなかった前半でしたが、いつのまにか安田さんが事件を追いかける姿を応援している自分がいました。
深瀬の死刑になりたい、父に復讐したいというとんでもなく自分勝手な動機には同情の余地はないはずなのに、少し分かってしまう自分にゾッとしました。
やらない理由がない、という一文にはっとしました。
また、私が岸和田出身で高校生の頃、親友が尾崎駅の近くに住んでいたり、私は枚方の大学に通っていたため、南海電車や京阪電車の風景など、とても緻密に目に浮かびました。
昨今のマスコミがマスゴミと呼ばれることに慣れてしまっている私ですが、
安田さんのような人がいるかもしれない、いたらいいなと希望をいだきました。