かりそめの星巡り
石沢麻依
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刊行日 2024/11/26 | 掲載終了日 2024/11/25
ハッシュタグ:#かりそめの星巡り #NetGalleyJP
内容紹介
* デビュー作『貝に続く場所にて』で芥川賞を受賞した
注目作家が贈る、初めてのエッセイ集 *・.・
現在ドイツに暮らす著者が、日々の暮らしに故郷・仙台の風景を重ねながら、愛してやまない文学の世界を、豊饒にして繊細な文章で綴っていきます。
「河北新報」の好評連載「記憶の素描」と、日本経済新聞に掲載された絵画コラム「美の十選」を収録。
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* 目 次 *
Ⅰ 記憶の素描
人形の家の過去/空白の冬の色/形の読み落とし/連続する地形/狐問答/三月の海に続く絵画/鳥の季節に/味覚をなだめる/柘榴地図/洪水ワイン/遠い海に浮かぶ影/香りの色彩画/人形の居る街/中庭の踊り手/火の色をしたもの/走り回る寿司/青と黄色の子供/記憶の黒い痕跡/ラ・カンパネラの庭/彫像的な説得/ハレの街、ケの街/書物神殿のどこかに/投影された星巡り/角パンたちの秋/翻訳家の小部屋/トルコ菓子行進曲/シュテルンベルクの声/カポーティの白バラ/チェスの歯/「長春香」の肖像写真/冬眠するカラス/小さな火曜日の声/青の時間/逃亡する人形/そこにはいない分身
Ⅱ 透明なものたち─美の十選
1 ルーカス・クラーナハ(父)〈ウェヌス〉
2 サンドロ・ボッティチェリ〈書物の聖母〉
3 ヒエロニムス・ボス〈快楽の園(中央部分)〉
4 ウィレム・クラースゾーン・ヘーダ〈メッキされたゴブレットのある静物画〉
5 ジャン・シメオン・シャルダン〈シャボン玉遊び〉
6 アルノルト・ベックリン〈ウェヌスの誕生〉
7 グスタフ・クリムト〈愛〉
8 ルネ・マグリット〈田園の鍵〉
9 アンドリュー・ワイエス〈海からの風〉
10 レメディオス・バロ〈鳥の創造〉
Ⅲ 小説を巡り歩いて
眼差しという語り─ル・クレジオの神話性に包まれた子供たち/透明な二人称/きなり雪の書/眠りの鳥類学/ドストエフスキーの月と蛾/蝶と蝶捕り人の変奏するイメージ
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著者/石沢麻依(いしざわ・まい)
1980年、宮城県生まれ。東北大学大学院文学研究科修士課程修了。現在ドイツ在住。2021年、『貝に続く場所にて』で第64回群像新人文学賞を受賞してデビュー。同作で第165回芥川賞を受賞。他の著書に『月の三相』がある。
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★★★
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★★
出版情報
ISBN | 9784065375099 |
本体価格 | ¥1,800 (JPY) |
ページ数 | 216 |
閲覧オプション
NetGalley会員レビュー
知識の少ない自分が、知らない言葉が出てきたときに、少し面倒さを感じながら調べるか、それとも、意気揚々と知りたいから調べるのか、この作品は後者で、調べることすら面白かったです。調べれば調べるほど、ドイツという国の魅力や知らない一面を見ることができました。また、そのなかでの著者の思い、感情、考察が、決して難しくはない言葉で綴られていくのを読むことが、全く苦ではありませんでした。もっともっとこの世界に入り込みたいと思わせるような文章が、ページをめくらせていくのです。早く紙で手にしてみたいと思いました。
ページの合間で見ることができる写真も、また自分を違う世界へと連れて行ってくれているようで、興味深かったです。
また、ドイツだからこそ、ガザの地域について思いを寄せる著者へ、日本にいる自分はどのように世界各地の紛争を感じるか、見つめ直すきっかけにもなりました。
難しいとは思いますが、第2章「透明なものたち―美の十選」については、その作品の画像があると、とても読みやすいとは思いつつ、それを探すのもまた、宝探しのようで、楽しみが広がると感じています。
『貝に続く場所にて』で記憶や時間を閉じ込めたような文章の美しさに惹かれたので、エッセイを読んでみたくてリクエストした。
ドイツでの会話のなかで使われる「東」や「西」という言葉から東西ドイツが隔てられていた時代を思い出す。東西ドイツが統一してから30年以上が経過しているのか。私はベルリンの壁が崩壊され、歓喜に湧く市民の姿が報じられたニュースを思い出した。
短いエッセイはドイツの風景の美しい描写だけでなく、心の内も描き出されて1つ読むだけでも心のなかに美しい言葉が降り注いでいくようだった。季節が移ろうごとにドイツの生活とともに仙台の暮らしが重ねられていく。
病気になった時に綴られた「味覚をなだめる」はとても興味深かった。
ゲッティンゲンの街などの写真も掲載されていて、『貝に続く場所にて』を改めて読み返したくなった。
コロナ禍やウクライナ侵攻、ガザへの思いとこの数年間に起こった出来事が、ドイツにいる著者だからこその視点で描かれている。
Ⅱ美の十選 では美術について語られている。私はルネ・マグリットの作品が好きなのだがどこが好きかと言われたら上手く表現できないのだが、こんな的確な描写で作品が語られることに感動してしまった。
絵画のモチーフなどキリスト教の基礎知識がなくても調べながら読むと、さらに理解が深まっていくだろう。
Ⅲ小説を巡って 「眼差しという語り」のなかで子供の頃に抱いていた児童書のなかの子どもたちへの思いに、きっと子供時代から豊かな感性を持っていたのだろうなと想像していた。その感性がさらに豊かに投影された小説に私は心を奪われているのだと思う。
三部構成になっていて、どこを読んでも自分の浅学さを痛感させられたが、全ては理解できなくても美しい文章で綴られるエッセイに心は満足した。
どんな方だろう。著者の背景を知らぬまま頁を開いた。
目次の羅列に魅了された。
空白の冬の色 味覚をなだめる 洪水ワイン ラ・カンパネラの庭 ハレ街、ケの街 小さな火曜日の声・・・
到底思いつかない言葉の審美眼が並ぶ。透明感、見えない透明感が在った。
学びの縁で居住するドイツのイェーナという街。
其処での生活者としての営みと生まれ育った東北・仙台の記憶が
著者が感じる色を伴って綴られる。そう。目次にもあるように色の記載が豊潤なのだ。
セピア色、きなり色、冬の色。ドイツが色を伴い眼前に拡がる。
きれい、だけでは済まない歴史…ホロコースト、ベルリンの壁、ウクライナそして自ら体験した東日本大震災も語られる。
各篇の末尾には日付の記載がある。2022年など記憶に新しいそれらの日々を探ろうと自身に手帳を開いてみた。
いやいや自分何してた、と自責の念。事象に心を傾ける時間、何処に置き忘れてきたのだろう。
文章がまるで写真集をめくるようだ。静謐と透明感に覆われる。
そんな場所が私に中に在ったことにも気が付かずに生きているが、
「私の中の原点」に立ち還らせてくれた、そんな本との出会いであった。
西洋美術に疎いとか知らない地名が多いとか外国書籍は苦手で、と距離を置くのは惜しすぎる。