いつか月夜

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刊行日 2024/08/08 | 掲載終了日 2024/08/08

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内容紹介

ぼくたちは、夜を歩く

眠れない夜に。不安な夜に。

静かで、藍色で、心細い。でも歩かずにはいられない。

そんな夜に。


「一緒に歩かない?」

会社員の實成は、父を亡くした日から得体のしれない不安(「モヤヤン」と呼んでいる)にとり憑かれるようになった。特に夜に来るそいつを遠ざけるため、とにかくなにも考えずに、ひたすら夜道を歩く。そんなある日、会社の同僚・塩田さんが女性を連れて歩いているのに出くわした。中学生くらいに見えるその連れの女性は、塩田さんの娘ではないという……。やがて、何故か増えてくる「夜の散歩」メンバー。元カノ・伊吹さん、伊吹さんの住むマンションの管理人・松江さん。皆、それぞれ日常に問題を抱えながら、譲れないもののため、歩き続ける。いつも月夜、ではないけれど。

著者略歴

寺地はるな(てらち・はるな)

1977年佐賀県生まれ、大阪府在住。2014年『ビオレタ』でポプラ社小説新人賞を受賞しデビュー。『今日のハチミツ、あしたの私』が勝木書店グループ「KaBoSコレクション2020」金賞を受賞、2021年『水を縫う』で河合隼雄物語賞受賞。2023年『川のほとりに立つ者は』で本屋大賞9位入賞。『彼女が天使でなくなる日』『大人は泣かないと思っていた』『カレーの時間』『ガラスの海を渡る舟』『こまどりたちが歌うなら』など著書多数。

ぼくたちは、夜を歩く

眠れない夜に。不安な夜に。

静かで、藍色で、心細い。でも歩かずにはいられない。

そんな夜に。


「一緒に歩かない?」

会社員の實成は、父を亡くした日から得体のしれない不安(「モヤヤン」と呼んでいる)にとり憑かれるようになった。特に夜に来るそいつを遠ざけるため、とにかくなにも考えずに、ひたすら夜道を歩く。そんなある日、会社の同僚・塩田さんが女性を連れて歩いているのに出くわし...


出版情報

発行形態 ソフトカバー
ISBN 9784758414692
本体価格 ¥1,600 (JPY)

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NetGalley会員レビュー

30歳独身の一人暮らしの男性が主人公。
同僚、中学生、元カノ、元カノのマンションの管理人。
ひょんなことから、5人で深夜の散歩をすることになる。

「善く生きろ」という父の言葉に、善く生きたいと願いながらその方法を探し求めている。
きれいごとだけではない感情と、それでも真摯に向き合う姿に引き込まれます。

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「善く生きろ」とは。考えながら思慮深く生きている實成さんが、本当に素敵でした。だとすると、モヤヤンがいるということは短所でありながら、長所でもあるよなぁなんて思えたり。
ウォーキング仲間の面々も、いろいろなものを抱えながらもそれぞれがそれを諦めなかったり、手放したり。距離感がいいなと思いました。特に熊ちゃんは歩きながら救われたり、成長していく様子が眩しかったです。(もともと素直で正直な子なんでしょうね!)
そして寺地さんの作品は、いつもうなずきポイントがたくさんあって好きなんですが、今回特にうなずいたのは塩田さんの「わたしがおかしなこと言うやつに合わせて行動を制限しなきゃならないの、どう考えてもおかしいもん」のところです!そう!それ!わかる!でもおかしなこと言うやつに合わせる方が楽なことばかりだからしんどい!!!そんな風に普段思っていても言葉にできない事をたくさん書いてくださっていて、少しだけ心がすっとしました。
めっちゃ感動した!とか、めっちゃおもしろかった!とかの激しい感情を与えてもらえるわけではないのですが(失礼でしたらすみません)、人生のふとしたタイミングで思い出しては、心を落ち着かせてくれる作品だなぁと、ありがたく心の中に閉じ込めました。
いつも私たちに寄り添ってくれる、寺地さんの作品、大好きです!
ありがとうございました!

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人と共に生活をしていくと疲れるしめんどくさいと思うことは出てくる。
でも一人ではなく、誰かと一緒に生活していくことは大事なんだと思う。
助けてくれる、助けてあげる、そんな関係が善く生きる事なのかなと思ってしまいました。
實成や塩田さん、伊吹さん、そして彩夏もみんな善く生きてる。
善く生きようと考えなくても、もう既にそうしているなと思います。

人の事はわかっているようでわかっていないし、意外に身近で生活している人の事も知らないことの方が
多いんだなと改めて実感させられました。
何か自分を考えさせられる思いがした物語でした。

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實成という30代のサラリーマンの視点で書かれた小説。夜の散歩に、会社の年上の女性と、その娘と思いきや、全くの他人の二人が加わり、さらに会社の先輩だった元彼女、彼女の住居の管理人さんまでもがメンバーになる。みんな色々な問題を抱えていることが徐々に分かっていく。實成の住まいは今は亡き父の知り合いのアパートなのだが、隣の部屋に住む男性も顔は見せない不可解な人物だが、悪い人にも思えない。實成の兄や姉達、姪っ子、未亡人になった母も、みんな普通に仲の良い家族として登場。夜の散歩もずっとこのまま平穏に続いていくように思えたが、それぞれの周囲が動き出し、謎も次第に明らかになり、實成の父の法事に帰省する事で、大団円を迎えていく。夜の散歩のメンバーも、それぞれあるべき場所へと自然に戻っていく感じがとてもいい読後感だった。實成という名前も、実は名字だというのが冒頭にわかるのだけれど、冬至と下の名前で呼ぶのは身内だけ。でもやっぱり實成は實成だよなと思わせる作者もすごいなと。實成が海老を料理したり、知育お菓子なるものを作ってみようとしたりする細かいディテールもとても楽しめた。

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「善く生きる」という言葉。

大切な場面で道を誤らないために
私もその理念を心に刻みたいと
感じました。

主人公は父を亡くしてから
霊のようなぼんやりした何かを
感じるようになった青年。

うす気味の悪さに慣れず
塞ぐ気持ちを紛らせるよう
真夜中に出歩く日々の中で、
彼は思わぬ出会いを重ねていきます。

やがて夜の散歩に加わっていく面々も
それぞれに深い苦悩を抱えながら
ままならない人生を歩んでいました。

出会いを大切にしたくなる一冊ですね。

確固たる自分がなかった主人公が
真夜中の邂逅を出発点として
意志を貫けるようになっていく流れが
まぶしくもありました。

正直、途中までは主人公のことを
無感動なしょーもない奴だとか、
軽んじられるのも無理はないだとか
思わないでもなかったのですが、
最後には見事にそんな評価を
打ち砕いてくれましたよ。

メチャメチャ魅力あるじゃん!

「善く生きる」という信条を
生き方に落とし込む男の有り様が
読者に波紋を投げかけてくる一冊。

読み手一人ひとりがその言葉を
胸に刻むことで、みんなの明日が
ほんのり明るくなると信じられます。

(対象年齢は13歳以上かな?)

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今回も、やられた…と思った。
それぞれの登場人物の抱える思いが、
どれもわかる気がするのだ。
それぞれの人の中に自分のかけらが存在している。
それだけでも、やられた・・と思うのに、
展開がことごとく予想をくつがえすのだ。
一緒に暮らして家族みたいになるのだろうと思った二人は違う家に住むし、
こんなに一緒に歩いて話しているのだから、また付き合うのでは・・と
思った二人は付き合わない。

人間も人生も、そんなに甘くはない。それでも、生きていこうじゃないか・・と
つぶやく作者の声が聞こえるがような気がする。

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「善く生きるとは。」
この冒頭のこの言葉に一気に心が貫かれた。

實成くんは高校を卒業し実家の滋賀から離れ大阪で一人暮らしをしている。
「善く生きろ」と言った父が言うたびに、うっすら怯えていた。それが具体的にはどういうことなのか分からない。そして人の目を見る行為が怖くなった。
實成くんは眠れない夜散歩をする。そしてその散歩には同行者が増えていく。

寺地先生の作品はほとんど読んでいるが、登場人物たちを通し自分はどうなんだろうといつも考えさせられる。
誰だって日々の生活の中でどこか違和感を抱えていることがある。
それが言語化されていて、この作品の中でもいくつもの言葉を通してこういうことでモヤモヤしていたんだなと自分の中に落とし込んでいった。
私が泣きたくなるほど共感した言葉は154ページの“「まじめ」が悪口になる世界は間違っていると思う”という言葉だ。なぜか世の中では「まじめ」という言葉には「つまらない」というニュアンスも含まれている。私はそのニュアンスがとても嫌いだ。「まじめ」で何が悪いのかと思っている。
最近私がとてもお世話になった人のことを、その人が居ないときにあの人はまじめで、まじめすぎてと評する言葉を聞きモヤモヤした。私はそのお世話になった人に「私はあなたのまじめであるところを信頼しています」と言葉にして伝えた。だからこそその言葉に強く共感したのだと思う。

言葉にして口にしないと伝わらないことがある。それは實成くんに限らず誰もが同じだ。そして言葉にして伝えてもらわないと伝わらないことがある。實成くんが一緒に歩く人達を通して、實成くん自身が行動することを通して、實成くんは他人の思いを知る。知っているつもり、わかっているつもりでいても人の本心はやはり言葉にして言われなければ伝わらない。
自分はどう思うのか、自分はどう行動したいのかと迷ったときにまた何度でも読み直したいです。

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父を亡くしてなんだかよくわからない不安を感じ始める平凡なサラリーマンの男性。その不安が「黒いモヤモヤ」として出現する。それを「モヤヤン」と名づけるエピソードにまず心を掴まれる。
不安を紛らわすために「夜の散歩」に出ると、会社の同僚に出会う。しかも子供と一緒にいる。自分の子供ではなく、一緒に暮らしていた男性の連れ子。男性とはもう別れている。いやあおもしろい。
とにかく登場人物が皆、魅力的だ。それぞれに個性があり、背景があり、そして秘められた想いや事情がある。
誰にも「色々なこと」がある。「色々なこと」を抱えていない人なんかいない。日々を悩みながら、想いながら生きている人に優しい眼差しを投げかける作品だ。あったかくて、ほわっとしていて、読んでいるうちにふんわりとした気持ちになる。

中にサマセット・モームの書いた童話「九月姫とウグイス」の話が出てくる。
国王に生まれた王女の名前のエピソード。そこから主人公の名前を思いついたのか、ちょっと興味深い。

「わたしたちに翼はいらない」を書いた人なんだ、そりゃあしみる作品で納得だ。

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なんとなく違和感があったとしても、
モヤッとしたものを抱えたまま過ごしたり、
雑事に追われて受け流したり、
そんなことが多い私にとって、
私は見過ごしません!
と言われている気になる作家さんです。
決して押し付けがましくなく、
あくまで
私は私です
みたいなスタンスに惹かれるのかも。
今作も心の深いところをギュッと鷲掴みにされるような言葉があちこちにあって、
何度も何度もページを行ったり来たり。。
発売が今から待ち遠しいです☺︎❥

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第一章を読み終えたときから
今作の醸し出す空気感が好きだなと思った
夜をイメージしたり、歩くをイメージする作品は過去にもあったと思うが
それよりずっと磨きがかかっている
世間の異常に物申しますといった強さを残しつつも、
しなやかなのだろうか膨よかなのだろうか感じるのは情景描写の良さだ
大切な人を真から思い合い、穏やかに日々を過ごせるが当たり前の世界を
著者の作品を拝読する度に思う

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父の死をきっかけにモヤッとした不安を抱える實成とひょんなことから一緒に夜の散歩をすることになった同僚と同僚と同居する少女、元カノと元カノの住むマンションの管理人。それぞれに悩みや不安、問題を抱えていて…

人はみんな、多かれ少なかれ悩みや不安、問題を抱えていて、日々折り合いをつけながら過ごしているんだと思う。ひとりで抱え込んで追い詰められていく人もいるだろうけれど、支えたり支えられたりという関係性を築くことができれば、少しラクになったり、一歩前に踏み出せたりすることもある。この物語では後者が描かれる。
特に大きな何かが起きるわけではなく、日常が描かれているからか身近なできごとのように感じたし、自分のことのようにも感じた。

太陽の射すような眩しい光ではなく、月の柔らかな光が感じられるラストはとても心地良かった。

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人生の中で同じ方向を歩いていてたまたま知り合う。そんな人たちの話だと思った。恋愛とかではなくただそこで一緒にいるだけ、それだけでもいい時がある。読んでいてそのことを強く感じた。
實成くんは考えがフラットで話を聞いているところがとても好感を持てたし、塩田さんはある程度年齢を経た人の強さを上手に使っている人だと思った。ウォーキング仲間の人たちはそれぞれ自分のことも相手のこともぞんざいに扱っていないのでいい距離感だと思って羨ましかった。感情を強く揺さぶられるわけではなく、じんわりと沁みてくる作品。その中でも「はて?」と思う問題もありそういうところは誰かと話してみたいなと思いました。

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静かに始まった話はやはり静かに終わったけれど、
読後、明らかにまとっている空気や色が変わっていました。
名前の付けようのない感情を抱えている登場人物たちと一緒に、自分の心の奥にいる感情を静かに取り出して抱え直したような、ジワリと心に染み込んでくる読後感でした。

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父から言われた「善く生きる」を考えてしまう真面目な實成。話す時に言葉をためらってしまう、相手との距離を測ってしまうところにとても共感した。眠れなくなると實成は夜歩く。ひたすら歩く。しばらくして、気が向いた時、気が向いた人だけで歩く仲間ができた。それぞれに事情を抱えているがその感情の起伏が細やかに丁寧に描かれている。
夜道を歩いていてよそのお家から漏れてる灯り、自販機の光、そういうものでほっとする。月夜じゃなくても歩けるんだよ、と言う仲間の言葉があたたかい。お互いがほっとできる灯りになれればまた歩ける。一緒に進める。そしていつかみんなの心が月夜になるよう私も願っている。
どの場面もどの言葉も心地よく、ずっと浸っていたかった。この物語を書いてくれてありがとうと寺地さんに伝えたい。

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寺地はるなさんの作品読むのは久しぶりなのてすがいつもの寺味さんとは少し違う感じのような感じがしました。むしろ小野寺史宜さんが書かれそうな読後感でした。

ラストのほうで塩田さんが實成くんに言った「わたしが好きでしょう。恋愛的な意味ではなく〜」から始まる台詞。たしかにここで言われる「居心地のよさ」は欲してしまうけどそれだけではいけないんだよな…とうんうんと頷いてしまう感じでこの場面が好きたなぁと思いました。

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読み終わった後にとても優しくて穏やかな気持ちでいっぱいになりました。
程度の差はあってもみんな悩みとか迷いを抱えながら毎日を生きているんだと、それだけでもじゅうぶん大変なことなのに善く生きようとしたり自分以外の誰かに思いやりの心を持ったりする。こんな世の中ってなんだか心地よくて捨てたもんじゃないと思わせてくれました。ふんわりと肩の力が抜けていくような素敵な作品でした。

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善く生きるとは。
どういう生き方が善いのか。
その答えを探しモヤモヤとした日々を過ごす實成。
そして夜の散歩仲間たちも人と関わることで、それぞれが抱える問題と正面から向かい
新たな一歩を踏み出していく。
同調し慰め合うのではなく、自分らしく生きるために自立していく。
暖かい光に慣れ合うのは居心地がいいけれど、暗闇の中を踏み出し自分の道を探していく
姿に勇気をもらった。

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健康の為ですが私も夕食後歩いているので、歩いている時間に考えが整理される感覚は共感でした。人生に悩める人びとが歩く時間をとる事で頭をスッキリさせて悩みを吐き出し、やがて歩くことを卒業していく流れが寂しいながらもハッピーエンドで良かったなと思いました。

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善く生きるってどういうことだろう。「良く」ではなく「善く」
「善い」かどうかは誰がどうやって決めるんだろう。
そんな悶々とした思いを抱えて、私も登場人物たちと一緒に歩いているような気持ちになった。

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善く生きるとは、どう生きることなのか。よい人であった父親を亡くした實成さんが、会社の同僚の塩田さん、塩田さんの元恋人の子ども、實成さんの元同僚かつ元恋人、そのマンションの管理人と出会って、夜の町を歩く。
たとえば、誰かが實成さんの伝記を書くことになったら、ここに出てくる人たちとの出会いや過ごした時間は、掲載されないであろう、そんな偶発的で縛りの弱い関係だ。
この上手く名前のつけられない5人の関係が好きで、ずっと5人で歩き続けられたらなあと思ってしまいました。

「そんなこと気にしてたら生きていけないよ」と鈍感さが強さであるかのように言われることもある中で、寺地さんの作品はいつも自分の感情や言葉に誠実であろうとすることの尊さを思い出させてくれる。

善く生きたい。そう思いながら、ひよってしまったり、狡かったり、自己嫌悪に陥ったりしている私には、染み込ませたい言葉がたくさんあった作品でした。

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主人公、實成とウォーキング仲間の塩田さん、熊、伊吹さん、松江さん。
人と歩調を合わせて生きていく事の煩わしさ、難さ、悦び、幸せ。
日々誰もが感じ抱えている心のモヤヤンを、丁寧に、奥深い表現力で描いていて、目頭がずっと熱かった。
会話に気付きがあり、癒やしもある。ああ、こんな風に人に関われたら良いな、なりたいな、と素直に思える、とことん心に寄り添ってくれる作品。
読み終えた後、スッと身体が軽くなって、元気のスイッチが入った。
ずっと大切にしたい、そんな一冊だ。

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「一緒に歩かない?」
漠然とした不安や日常の悩みを抱える人々の偶然の出会いから始まった「夜の散歩」

多くの人々が寝静まった夜。
昼間とは違った表情の街。
ゆっくりと流れる夜の時間に心も体も包まれながら歩く。
年齢も性別も生き方も違う。
家族でもないし、友達ともちょっと違う。
お互いに必要以上に踏み込まない関係性が
羨ましくて、でもなんだか寂しい。矛盾する気持ちの中で心が揺り動かされる物語でした。

忙しない世の中を生きる誰かに、
心細さに押しつぶされそうな誰かに、
届けたい一冊です。

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善く生きる、とは何なんでしょう。人それぞれに価値観が違うし、善し悪しの判断基準も違う。このお話の中心人物の實成さんは善い人で善く生きてると思います。夜のウォーキングメンバーもそう評価しているはず。このメンバーの距離感が程よくて、安心感を得られる人肌温度のお付き合いがいいなぁ、と思います。
實成さんのもやもやした感情に共感して、これは私の気持ちを代弁してくれてるんじゃないか、と思わせられました。
實成さんの優しさは月の光みたいな包み込む温かさ。やっぱり善い人です。

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自分の大事なもの、嫌なこと、求められることと束縛されること。
外からは見えなくても、日々葛藤を繰り返しながら、自分の歩んでいく道を探している。
誰かと一緒にに歩けたらいい。
一人でも自分の足で歩けたらいい。
寺地はるなさんの優しい世界が広がっていた

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寺地さんの書かれる物語に、なぜだか心惹かれる。
たぶん物語の主人公が、みんな丁寧に生きているからだと思う。

去年亡くなった實成の父親は、生前、實成に「善く生きろ」と言っていた。
實成の父親のいう「善く生きる」というものがどういったことを言っているのか、實成はわかっていないし、もちろん私もわからない。
でも、實成は、とても丁寧に生きていて、これが、よく生きるということなのかな、と思う。

ウォーキング仲間も、皆、それぞれ抱えるものがあって、もがきながら生きているのだけれど、それをドラマティックに描き上げるわけではなく、淡々と書かれているのがよかった。
ドラマティックにやられるとすっと冷めてしまうから、これくらい淡々としている方がいい。
なんというか、丁度良い距離感。
このウォーキング仲間の関係のよう。

物語の終盤で、もっちゃんが、「實成君、長い旅をしてきたみたい」と言っていたけれど、ほんとにそんな感じ、
読んでいても、實成の人生の旅にふれたような感じがした。

あまり登場しなかったもややんの存在が、この物語を引き締めているなあと思った。

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会社員・實成、得体のしれない不安を感じる彼は、不安な時間を解消するために夜の街を歩く。
不安から遠ざかるために、何も考えず、ただただ歩く。
實成は、いつもの通り夜の散歩の途中、会社の同僚と彼女が連れた不登校の少女に出会う。
登場する人々が抱えた不安感・・・寺地さんらしい不安定な人たちの描写がとてもよかったです。
青春小説のように皆の問題が解決するわけではないのだけれど、夜の散歩クラブを通じ、少しだけ変化が生じていく過程がよかったです。

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淡々と話が流れる中、「善く生きる」という大きな問いかけをしてくる。人間であれば皆『善い人』でありたいと思う。そうありたいと行動し、それが時には相手には迷惑だったり勘違いされたり。だからこそ言葉は大事、自分の殻に閉じこもってないで人と触れ合うことも必要だ。
そこまで書く?って言うくらい細いかい描写がされてて驚くと同時に作者の作品に対する熱意を感じました。感激するって作品ではない代わりに幾つも共感できる箇所があってそれぞれが楽しめると思いました。寺地はるなさん、応援してます!

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ひょんなことから一緒に歩くことになったメンバー。それぞれに抱えているものがありながらも、お互いが踏み込み過ぎない程よい距離感でした。
「自分の寂しさは自分で決める」みたいな言葉が印象的。親や家族との関わりも共感できた。

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きわめてまっとうな、まっとうな主人公と人々の物語。このような塩梅の良いまっとうさに出合うのはひさしぶりで、なんだか嬉しくなってしまった。
 えびの背ワタが取れないこととか、会社の年配の男性社員が若い女性社員を非難するのに「気が強い」と表現することに対する感情とか、得体のしれない「モヤヤン」に襲われて布団をはねのけて夜道を歩かずにいられない衝動とか。「なんか違う」ことに敏感なのだと思う。
 冒頭の一行「善く生きるとは。」
 主人公、實成は夜道を歩く。夜道で出会った人と歩く。歩く。
 そして、「實成」とは、「実直に、成る」であるのだなぁ、と思わせられる。

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会社員の實成は亡くなった父親の言葉を自問自答する。父母の言葉って、どうしようもなく、理由もなく、正しいことだからしょうがない。日常生活を過ごす中で自分の気持ちに正直に生きようとするところが素敵だと思う。實成の心情が繊細に描かれていて共感できる。散歩メンバーたちもいろんな事情があるなかで自分なりの方法を模索しながら生きている。みんなうまくいきますように。自分に正直に生きてそんな自分を肯定していきたい。

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大好きな寺地はるなさん、いつも新刊を楽しみにしていむす。

今回は、夜の散歩。
だんだん一緒に歩く人が増えて行く。
ただ歩くだけの微妙な関係。
深入りせず、ちょうどいいのかもしれないと思いました。
でも、ただ歩くだけじゃない、それぞれの人の抱える思い。
私も一緒に散歩しているような、そんな気持ちになりました。
最後も、とってもよかったな~

表紙も、どんな風になるんだろう。
すごく楽しみです。

読ませていただき、ありがとうございました。

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「ただ夜散歩するだけの小説です」という作者の言葉が、読むきっかけでした。
ドラマチックな、起伏の激しい展開の作品が苦手になってしまって、穏やかで、感情の起伏が緩やかな小説が好みなのです。
それぞれの理由で夜歩く人たちが出会い、そこからまた自然に抜けていく、というストーリーです。
實成くんのモヤヤンのように、きっと誰もが漠然と抱えている恐れや不安のようなものって、誰もあえて言葉にしないけれど、それに光を当てて丁寧に描いています。また、日常生活の中で、ちょっと引っかかるけど、ま、いいか、って流してしまうことを丁寧に掬ってくださっています。
「もう何者にもならなくていい」という言葉に共感しました。塩田さんと同じで、私も今は自由にピアノを練習しているから。

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あ〜良かった!今までに読んだ寺地はるなさんの作品で1番好きかもしれない。
亡き父の遺した言葉「善く生きろ」を信条にしている会社員の實成。あるきっかけで同僚の塩田さんと彼女と同居する中学生の女の子、實成の元カノ、元カノの住むマンションの管理さんと一緒に夜の散歩をするようになる。それぞれが色々なものを抱えていて、でもこの年齢も性別もバラバラなメンバーでのウオーキングがお互いの刺激や支えになっているようでとても良い。いつも月夜なんてありえないけれど、月夜じゃなくても歩いていけば光が見える。そう気付かせてくれるとっても素敵なストーリーでした。實成が自分の意思でちょっとずつ変わっていくところもとても良かったです。

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読み始めてすぐ、これはきっと好きなお話。と直感した。
モヤモヤしたものから、昼の自分から、今の場所から、それぞれ逃げるように夜の散歩に出かけるひとたち。
よい夜もいまひとつの夜も驚きの夜もせつない夜も、なんとなく集まった人達なのに、いつの間にかなんだか妙に心強い布陣。
昼間には見えない光を探しながら、このままでいいのかもしれないと、ほんのり思って、みんな思って、でもやっぱりちゃんと現実は現実だった。

あの夜たどり着けたお店も、あの夜だから話せたことも、たくさんたくさんあって、それがちゃんと繋がって、きっと愛しい自分に出会えるはず。
確約はできないけど、遠い未来で、そんな風になれるような予感がする。

みんなで歩いた夜の散歩。
なくてはならない夜たちだった。
静かで凛としたお話。

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作中に登場する「善く生きろ」という言葉が、ピリリと響く。父親の死をきっかけに、夜中に出歩くようになった30代の男性。やがて同僚の女性やその知人の娘とも一緒に歩くようになり、次第にその仲間は増えていく。

登場する一人一人はそれぞれが何かを抱えており、迷ったりうずくまったりしながら生きていく。

タイトルの意味を知ったとき、不覚にも泣いてしまった。強く照らす明かりばかりが、人生を指し示してくれるわけではない。ときには互いに寄り添いながらも、一人ですっくと立ち、歩いていくこともできるのだと背中を押された。

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寝ても覚めても余韻が尾を引く

そこは
売れることを意識し作為的につくられた音楽とか
多すぎるイベントの集客の雑踏や
グルメ番組に紹介された唐揚げ店に行列を為す人の列とか
たくさんあることから真逆の場所

冒頭1行に、多くが着目し惹かれるのろうけれど
それは十分に共感できるのだけれど
やさしい、という言葉を用いず日ごろの会話から伝えるところ
まじめであることを、所作であらわすこと
どんな引っ掛かりが、好き、への導となったのか
筆者の目線のあたたかみに出会うたび気持ちがぎゅうっとなる

大業な宣伝や一目瞭然の誘いことばに紛れることなく
一冊一冊ひとりひとりの手によって「よい本です」と語りつながれてほしい本です。

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主人公は實成冬至。ある日の夜、彼は職場の塩田さんが少女と一緒に歩いているところに遭遇する。
それから彼らの、夜の散歩が始まった。散歩のメンバーは實成の元カノ、元カノが住んでるアパートの大家さんと増え、4人になる。
何か劇的なことが起きるわけではない。事件が起きて解決するというものでもない。彼らが過ごしているのは日常で、散歩もその延長のように感じられた。
その日常の延長のような散歩が、散歩をするメンバーたちの救いにも見える。
散歩での会話を通して少しずつ昼間の日常が変化していく實成。
なんとなくある日常の閉塞感や、他者からの押しつけのようなもの、それを夜の散歩が晴らしてくれているように感じた。
真っ暗な夜でも、月が照らしてくれる夜なら歩ける。街灯も家の明かりもなくても、月夜のような優しい光が世界には存在すると背中を押してくれるような作品だった。

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より善く生きたいと考え、ささやかな暮らしを大切に生きる青年のささやかな成長の物語。主人公冬至は、ひょんなことから、職場の同僚、同僚の同居人の中学生、元カノ、管理人さんと夜のウォーキングをすることになる。ただ一緒に歩くだけのゆるい繋がり。だがこの繋がりを通じて、それぞれがほんの少しだけ前に進むきっかけをつかむ。
自分の生き方は自分で決めるしかない。誰かに決めてもらったり、誰かの生き方を決めることはできない。
頭では分かっていてもなかなか上手くいかない。近い関係だとより難しく面倒だ。それでも何とか折り合いをつけて関わり合おうとする冬至の姿はとても清潔に思えた。。私もより善く生きたい。周りに合わせて上手く立ち回るのではなく、自分が納得できる生き方をしたいと思った。

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初めて寺地はるな読んだ。とても優しい話だった。こういう作風なのかな。みなり君が熊に怒るところはとても大事な事だなと思って、自分も娘にちゃんとこういう事は大事にしてくれるように伝えたい。でもみなり君は伊吹さんに怒らなかったシーンで、『本当に怒ったわけではなかった』のはとても残酷な事。まあ怒って欲しいと伊吹さんが思う事が烏滸がましい話なんだけども。というか兄弟家族が出てくるシーンでも冬至じゃなくて名字で書かれると最初よくわかんなかった。

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主人公の實成くんは父親を亡くしてからなんとなく不安の塊のようなぼんやりとしたものが見えるようになり(通称モヤヤン)、そんな夜は散歩に出る。
色々あって人が増え5人で深夜の散歩をすることに。
年齢も立場も違うなんだか不思議な集団。
最後は上手くまとまるのかなと思っていたけど結局はそれぞれの道を歩んでいく。
いろんな人がいていろんな考え方がある。
"言葉は通じるのに意思疎通ができない"人たちもいる。
勇気を出して先に進むことも大切だと思うけど焦らなくてもいいのかなとも思いました。
月夜のようなほんのりとした光を感じる読後感でした。

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デビュー作からずっと追い続けている寺地先生の新刊。もう、やっぱり、大好きです!
自分にも思い当たる、そうそう!その感じ!という寄り添ってもらえる文章も、
自分では気づいてなかった、気づこうとしなかったことを目を逸らさないで!と、指摘されたような、胸が痛くなる言葉も、
厳しすぎない?と感じてしまう自分の甘さを認めた上で、よりよくなりたいとやる気をもらえた読書でした。
「いつも月夜に米の飯」初めて聞いた諺でした。
『九月姫とウグイス』読んでみます。
決めつけや押し付けるような文章ではない、誰も否定しない内容の話の中で、絶対にダメだということには断定的に書かれている箇所に深く深く安心し、肯定してもらえたという嬉しさを感じました。

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夜の街を徘徊する人達。それは独身の寛成の存在がきっかけ。それぞれの重荷から逃げるように徘徊する彼らの頭上に、月夜が訪れるのだろうか? 月がなくても歩めるようになるのだろうか?
静かに静かに、読み手の心を揺さぶってくる物語。

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父の死後、寛成につきまとうぼんやりとした存在。そこから逃れるために、彼はひたすら夜の街を散歩する。そんな彼を中心に自然に人が集まる。でも集団には吸引力や方向性と言う厄介な力が生じてしまう。それが良い方に向けば良いのだけれども、それぞれが背負った荷物が異なるだけに、それもまた難しい。そんな様子に、いつの間にか自分を重ね合わせていた。

「善く生きる」に縛られる故の、寛成の穏やかで独占欲の薄い恋愛感。それをもたらした彼のたどってきた過去が、夜の街を歩き回る不思議さと交互に語られていく。穏やかだけど、よむ人の心を揺さぶってくる。例えばやりとりの中に、胸を打つはっとする言葉に不意打ちされる。
「二度と行けない場所があるって、何か良くない? なんかそこだけきれいに輝いてそう」
「一緒にいると自分が好きだと思える相手を選びなさい」
「可能性が少ないって、もう何者にもならなくていいって、自由だね」

その夜の散歩の果てに、散歩中とのやり取りの果てに、寛成は「恋愛」と「居心地がいい」は別の場合があることに気づいたのだろう。正面から向き合う気持ちと、並んで寄り添う気持ちをやっと区別できたのだろう。そして今までの自分はどちらだったかも…… だから、寛成は悲しくても受け入れることができたのか。

いつも月夜ではない。それどころか、彼らの心に逃げなくてすむ月夜が訪れるかもわからない。でもその代わりに、窓から溢れる光、街路灯の光、星の光がいつもある。だから必ず、みんな逃げずに歩いて行くことができるはず。
そして、月の光はただひとつ。そのことに、とうとう寛成は気づかせて貰うことができた。その時の彼の顔はまさに「どこにも移動せずに、長い旅をしてきた人の顔」をしていたはず。
だから、寛成は自分から動く。逃げるように散歩するのでなく、前に進むために動いていく。

どうか、2人に幸あらんことを。

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「善く生きろ」という父親の言葉に、その「善く」の意味を考える實成。
成り行きで一緒に夜の散歩をすることになった人たちと、深く関わっているわけでもないのに、助けになれないだろうかと奔走する實成は、無意識に自分なりの「善く」を実行している。
人それぞれの「善く」があると思うけれど、ベースには必ず思いやりというものがあるのだと、読みながら感じた。

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淡々と過ぎていくようで散りばめられている言葉は心の深くに刻まれてゆく。
自分が自分を大切にすること。
自分の本当の気持ちを裏切らないこと。
自分に正直でいること。
それは時に自分を苦しめることもあるけれど。
流されない生き方は強さだと教えてくれる作品だった。
みんな迷いながら生きている。
それでいいのだ。

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色んな人が色んなものを抱えて深夜に歩く
人から見ればそんなに大きな悩みではないのかもしれないけれど、本人にとっては引っかかってる悩みってあると思う
夜と昼では人の感情も少し違う
夜は何故か少し自分を愛おしく思うんだと思う
自分の気持ちを少しだけ素直に認められる夜に寄り添う人がいてくれるなら、きっと何を言うでもなく寄り添ってくれるなら、気持ちを整理して向き合えるようになるのかもな
そんな風に思いました
人の優しさに触れる物語でした

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亡くなった父の「善く生きろ」という言葉に憑かれた30歳の實成。ひとり静かに夜を歩く中で、同じように漠然とした不安を抱える人たちと出会い、歩を進めていく。人と歩調を合わせる事の厳しさと喜びを描いた、闇を照らす温もりに包まれた作品。

月夜もあれば闇夜もある。淡々とした文体が、無理強いしない登場人物たちとシンクロしていて、とても心地が好かった。
何かしなきゃ、と自分でわかっている時ほど何も出来ないし、何も言われたくない。そういう絶妙な距離感を大切にし、少し臆病になりながらも、見極めて踏み込む。それぞれに合った、ここぞ!という勇気を振り絞るべきタイミングのお手本を示してくれた。
「どこにも移動せずに旅をする」という表現が素敵で、ひとところをくるくる回っているようでも、人は何かしら成長出来ているのかな?と励まされた。

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30歳独身、1人暮らしの實成。多くを望まずに日々を生きている。
ただ、お父さんが亡くなってから得体の知れない不安(「モヤヤン」と呼んでいる)にとり憑かれるようになった。夜にそいつはやってくるのであてもなく夜道を歩いていると、同僚と同居人と、元同僚の元彼女と、元彼女が住むマンションの管理人と出会うことになり、時々みんなで歩くことになる。

お互いの事情を聞くでもない。とりとめのない話をしているだけなのだが、そこに絆と気づきが生まれてきて…

「善く生きろ」というお父さんの言葉にとらわれる實成はこの言葉と共に自分と向き合うことに。
「ちょっと無理しなきゃいけない時って、いっぱいあるよ、生きていると」
「おかしなこと言うやつに合わせて行動を制限しなきゃならないの、どう考えてもおかしい」
ウォーキング仲間にも変化が表れます。

寺地さんの作品は私の「モヤヤン」を追い払ってくれます。
ふとした時に「今日のコレ嫌だったなあ」とか何で言い返さなかったのかな。とか。

派手ではない身近な登場人物たちに自分を重ねてしまいます。

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この息苦しい世の中をどうすれば心地よく生きることができるのか。
誰にでも、振り回されたり、裏切られたり、生きづらいことばかりで自分の心がどこにあるのかわからなくなってしまう。そんな経験があるかもしれない。この物語の登場人物たちもみな何かを抱えながら生きている。
何をすれば、何をしなければ、自分が自分でいることができ、心がしっくりと落ち着くのか。
自分の心を優先しながら生きることはとても難しい。でも、心にひっかかるものを取り除きながら、自分らしさを大切にしていけば、いつか生きづらさが心地よい人生に変わるかもしれない。人との出会いと別れは人生を変える力があるのだと、安心感に包まれほっとするラストが心に染みました。

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父親が亡くなった後の気持ちを思い出した。
生前に言われた、何気ない一言がずっと心に残り、
時に自分を叱咤する。

真夜中に散歩、ってしたことありますか?

私の場合は深夜に外を歩くこと自体、
飲み会の帰り道くらいしか思い当たらないのだけれど……🫣

月に照らされた静かな夜の町を歩くって
どんな気持ちだろうと想像した。



父親を亡くしたばかりの30歳の独身男性の實成が主人公。
南極にペンギンを見に行くような派手さはないけれど、
出会いあり、別れあり、冒険あり。旅のような
日常の一年の物語。

ああ、そういうことあるよな、と思うような日常の
中の理不尽さ、疑問、それでいいの?と思って
しまうようなこと、が細かくたくさん盛り込まれて
いたように思えました。


隣人の猫が入ってきちゃうところや、
「みけねこ洋菓子店」のくだりも好きでした😻

實成の家族の雰囲気も好きで、もう少し家族の話も
読みたかった。



寺地さんの作品は、やっぱり好き♡
来月、紙の本が書店に並ぶのが楽しみです😊

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特に何かが起きる訳ではない日常が描かれています。
ただ、そこに描かれている人々同士のまなざしのあたたかさを感じることができました。
人は誰かがまなざしを向けていることにより、生きていけるのかなと思いました。

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大好きな寺地作品、このタイトルにも大いに惹かれた。時々、ひたすらに夜歩いてた主人公の實成(みなり)に、ひょんなことから夜歩き仲間が増えていき、そのメンバーや周りの人達や家族との関わりの中で、それぞれが成長していくさまを描く。今回も、人の内面や本音、取るに足らないように見えて実は大切な感情や違和感、或いは言葉ならないよくある状況などが悉く掬い上げられており、それがあれもこれも思い当たり、更に時代に合った希望も感じられ、作者の鋭さや繊細さに驚くと共に肯首しきり。今まで読んだ寺地作品の中で最も好きな1冊となった!

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人との距離感は難しいけれど、誰かと関わり、分かり合えたり離れたりすることで、自分を知ることができるのかもしれないと寛成を通して感じる。友だちではない人たちとの夜の散歩は、少し面倒くさそうだけどちょっぴり羨ましい。悩み傷つきながらも一歩踏み出したくなる、そんな物語だった。

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「やさしい人は、勝手な人でもある」

「善く生きる」という信条の父のもと育った冬至は四人兄弟の末っ子で唯一の独身の30歳。
父の葬儀のため、ひさしぶりに帰省する。

冬至はひょんなことから夜のウォーキングの会をはじめることとなる。

寺地さんいわく、この本は作家生活の第二章といえるようなターニングポイントの作品であるという。
タイトルはことわざ「いつも月夜に米の飯」より。

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この本を読んで、まず感じたこと。
出会いは必然、でも、表面上だけでは出会いとは言えない。
1歩近づくことで、互いに良くも悪くも影響し合っているのだなぁと思いました。

心優しい主人公たちの醸し出す雰囲気がとても心地よい物語です。
相手への気遣いは大切だけど、そのせいで言葉を飲み込んだり行動を抑えることはもったいない。
私もこんな優しい関係を築いていきたいなと思いました。
ありがとうございました。

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人生を歩んでいく中で心が弱ってしまう時もある。そんな心をじんわり温かく包んでくれるような内容でした。
料理でも何でも作業しながら人と話すのは面と向かって会話するより心を開きやすくて話しやすい。散歩しながらなんて一番手っ取り早く素直な気持ちを出しやすい。シンプルだし夜道というのがまたいいなと思いました。
寺地はるなさんの作品は、日常の何気ないちょっとした仕草が丁寧に描かれているので、読者はその時の心情を推測しやすくなります。心の動きがリンクするというか、そんな匠の技が散りばめられているので読んでいて心地が良くなります。

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實成のお母さんが好きです。「寂しさは私の寂しさ」という言葉が良かったです。周りが外から見て感じ取ること、考えることと、自分が感じてること、考えてることってかなり違うと常々思っていたのでスッキリしました。塩田さんが社会で経験してきたアレコレ、私も少しわかるなって思いました。周りの目を気にして自分の行動を制限しなきゃいけないっていう理不尽なことってありますよね。被害が自分だけならまだしも、誰かに及ぶってなったら行動を考えてしまいます。だけど、最後、あーだこーだ言ってくる周りに気を遣って自分らしくいられないのはおかしいって思って自分を通すことができて良かったです。私もそうありたいし、そういう世の中にしていきたい。

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最近は重い内容の作品が多かった寺地さん。今回もある程度覚悟して読み始めたが、意外やとても優しい読み心地の作品だった。
主人公は實成冬至。4人きょうだいの末っ子で、それぞれの名前の付け方がおかしい。家庭にも特に問題はなく、彼自身も大きな問題は抱えていない。唯一気になるのは、5月に父が亡くなった後、「あれ」が現れるようになったことだ。そんな實成くんが送る、いたって普通の毎日を丁寧に描いていく。
もちろん、穏やかとはいえども多少の波風はある。けれど、読みながら怒りに震えたり、涙があふれたりはしない。提示される様々な問題も、ごく自然に解決へと向かう。この自然さがとても心地よかった。

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寺地はるなさんは、稀有な物語の書き手であると共に、作品や登場人物をわかりやすい物語として描かぬよう、心を砕いて執筆されてきた作家さんだと思います。人はもっと多様で複雑で、だからこそ一筋縄ではいかないし、愛おしくもある。寺地さんの作品からはそんなメッセージを受け取ってきました。その意味では、寺地さんは物語を書いているのではなく、人間を書いているのだ、と言っても良いかもしれません。

 本作は、そんな寺地さんの真骨頂ではないでしょうか。登場人物達は、偶然に出会い、ただ夜道を歩きます。主人公の實成を中心に、何気ない日常が描写され、彼がふとした事から思いを馳せる様々な事柄や、一緒に歩く人々との会話が丁寧に綴られていきます。それはとても自然で、さらりと流れていくようでいて、時にハッとさせられたり、グッと胸を突かれたり、言葉と思索の豊かさに満ちています。

 そして、實成を取り巻く人々のゆるい結びつき、それが心地良く思えるのです。血の繋がりや、スマホを通じて常に誰かと繋がっている事、依存的に誰かを束縛する事、それらを愛と表現する事…そういった強い結びつきに息苦しさを感じてしまう時。永遠を感じさせてくれる絆、全てを分かり合える関係…そんな深い結びつきがないと、孤独を感じてしまう時。そんな時に、このゆるやかな関わりの物語が、そっと心をゆるめてくれるように思うのです。ただ居合わせただけの関係でも、人は関わり合えるし、夜道を照らしあう事ができる。そんなふうに生きていけたら、山あり谷ありの人生も、いくらか歩みやすくなるだろうと思うのです。

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主人公はひょんな事から同僚と中学生、元カノと、彼女の住んでいるマンションの管理人との5人で夜のウォーキングをする事になる。皆、どこにでもいる様な人達に見えるが、それぞれの『事情』を抱えている。亡き父親から言われた『善く生きる』をいつも考えている主人公の心の内での思いが凄いと感じた。生活の中での人間関係程ストレスなものはないと思う私には少々胸の痛む内容であり、大きく頷ける内容でもあった。気付き、成長する事は年齢など関係なく誰にでも可能なんだと思た。優しい文章の中で避けてはいけない大切な事を教えてくれる。

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けして裕福でない家に生まれ子どもも四人いて高校を卒業して印刷会社に就職する。父が亡くなり喪中の年末、二番目の姉から「あんた正月帰ってこんの」どこにでもいそうな今どきの男が主人公を著者が巧みに表現する。おもわず入り込んでしまう。タイトルのいつか月夜にそうだよなと納得する。結末の終わりかたになんども考える。優柔不断な男も大きく成長した気がする。私はこんな小説、物語が好みだと再認識した。

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寺地さんの描く主人公の男の子はみんな「善いなぁ」と思う。
清潔感があって、余計なことを言わない思慮深さがある。
だけどちゃんと自分の違和感を大事にしていて、いうべきことは言う。

歩くことは精神衛生上とてもいいと思う。
特に、夜に歩くというのは余計な情報が減っていい。
だけど、女性にとっては怖いことでもある。
特に田舎は街灯もなく何かあったときに頼るところ(コンビニ)もない。

人に頼ることはとても大切だけれど、頼り切りというわけにはいかないし、
何事にもいつか終わりが来るものだ。夜はいつか明けるのだ。

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寺地さんの文章はいつ読んでも心地良くて大好きです。どの本の登場人物が話すフレーズも好きだし、エピソードも好きだし、もちろんトータルで物語そのものがとても好き。この本も例に漏れずで、読んでいるとなんだか、心地良くて優しくなれる。それは、登場人物がみんな、どこか繊細さを持ち合わせているからだと思う。そして、その繊細さに寄り添う他の登場人物いて、その人が自分に寄り添ってくれているように感じるからではないかと思う。
この本は一緒に夜のウォーキングをすることになり、多くは語らずなんだけど、一時期一緒にウォーキングをすることになるが、みんな何かに区切りを付け、一歩踏み出す事になる‥。なんだか、私もこのメンバーと一緒に歩いて、一歩踏み出したくなった。

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ゆるくつながったり、ほどけたりする関係が生きていると必要な時がある。無心で歩いて汗を流すことも。
どの人物の考え方にも共感できた。(伊吹さんにはあまり共感できなかったけど、最後の決断は応援したい。)
自分を曲げてでも楽な方に沿えば、その場はうまく行くかもしれないけれど、そんなときは塩田さんを思い出そうと思う。

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實成は、周りの人たちの話し方とか、接し方が何だか気になっているんです。社内で女性と話をしていると、それをニヤニヤしてみている先輩がいたり、実家の母からどこでも買えるような食料品が沢山入った荷物が届いたり、何だか違和感を感じることが多いのです。

 散歩を一緒にするようになった中学生(ニックネームは熊)が、意外とはっきりと好き嫌いを言うのを、そんなものなのかなぁ?自分とはだいぶ違うリアクションをするんだなと思いながら見ています。でも、彼女のこと決して嫌いじゃないんです。


 實成は、父から言われた「善く生きる」ということが心の中に引っかかっていました。「善く」というのは誰に対しての「善く」なんだろうか?それは相手に対してなのか?自分に対してなのか?

 自分は自分にどれだけ正直なのか?と考えてみると、自分は意外と正直じゃなかったんだなと気がついたんです。どうして、こんなに無理して生きていかなきゃいけなんだって気がつけたから、きっとこれからの彼の人生は変わっていくんだろうなぁ。

 實成の兄弟の名前の由縁から、サマセット・モームの書いた童話「九月姫とウグイス」の話が出てくるんだけど、この話気になるなぁ。

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實成はものすごく世界をフラットに見れる人だなと思いました。自分の偏見に気づいた時には素直に修正出来る人。何かを口に出す前に、言うべきことなのか、言わない方がいいのか考えられる人。他人に何かを強要しない人。すごく品があると思いました。
兄や、会社の先輩、自衛団の男性との対比で、よりそれが鮮明になる。人としては見習いたいけれど、私はきっと、そんな人のそばにいたら少し寂しい。伊吹の気持ちが少しわかります。
寺地さんの作品を読むと、優しい気持ちになりつつも自戒の念にかられたり、とにかく重くて苦しくてこの世の理不尽さを呪いたくなったりするのですが、この作品は前者です。身構えず、肩肘はらず、フラットな気持ちで読みたい本です。
最後に、もっちゃんが言った「どこにも移動せずに、旅に出る人がいる」って言葉。すごく好きな言葉になりました。

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實成 冬至 みなり とうじ 印刷会社で働く30歳、実家を出てアパートで一人暮らし。父親を亡くしてから“モヤヤン”が現れるようになる(ホラーファンタジーではなく)何らかの精神面での不安定さが彼を悩ませている。
父からの言葉「善く生きろ」に従って生きてきたのも原因のひとつかもしれません。
得体の知れない不安で眠れない夜に歩く。歩いているうちに出会った人たち、年代も生い立ちも環境違う人たちとの淡い交流。
起伏に富んだ展開はないが、穏やかな日々に時折不穏な出来事が挟まれ、生活が少しずつ変化していく。
月の光や家々から漏れる灯りは夜に歩く人たちの支えになってくれる。強く大きな光ではないけれど、やさしく見守ってくれる存在がそこにあること、読後は、自分自身もそんな存在になりたいと思わせる良作。

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何考えてるのか分からないと言われがちな声の大きくない人達の内面がていねいに描かれていると思いました。最後が少し駆け足だった気もしますが、作者さんの他の作品にも出てくる見た目口数の少ない男子たちにいつもハハのような気分にさせてもらってます。ウチのもこんなふうに色々考えてるんかな…と。関西在住なので街や場面の雰囲気が想像出来て読んでいて親近感がありました。

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いつの間にか集まった夜の散歩仲間たち。 暗いから距離感があいまいになり、いつもなら言えないことも口にできてしまう。
お互いがほんのり明るい灯かりになったから、前へ進むことができた。それでもこの関係は一時的なものだから成り立っていたのかなと思う。
穏やかすぎると物足りない。刺激が強すぎても落ち着かない。伊吹さんのあの行動。わかるけどあれはさすがに......と思ってしまった。

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善く生きろと亡くなった父から言われていた主人公實成。
いろいろ考えるうちに不安になり、眠れなくなる。
そんな夜ウォーキングに出かけると知っている人に会う。
出会いの輪が広がり5人の仲間となるが、それぞれ様々な事情がある。
劇的な変化はないけれど、少しずつ進歩していく姿に安心できる。

途中出てくる偶然見つけたお店 みけねこ洋菓子店が舞台の物語もありそうと思ってしまいました。

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得体の知れない不安に取り憑かれ、深夜の散歩を始めた實成。だんだん仲間が増えて5人。闇に紛れて話すとりとめのないこと。そのやり取りにお互いが少しずつ心を開いていく。各々が抱えるものも何となく感じていく。實成の亡くなった父の残した「善く生きろ」ということばを反芻しながら、繰り返す日常にさざ波のように起こる小さなことごと。夜歩くことで内省することもある。それぞれの一歩はなかなか重いものだったけれど、人との関わりは人を変えてゆくのだなとほっとする部分もあった。その小さな変化が好ましかった。

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言葉ではうまく説明できないけれど、得体の知れない不安に襲われることは誰にでもあるんじゃないかと思う。徐々に増えていく夜の散歩メンバーとそれぞれに悩みや不安を抱えながらも、前を向いて歩いていこうとする姿がとても良かった。人が変わっていくことは悪いことでも寂しいことでもなくて、喜びでもあると思わせてくれるような、じんわり心に沁みていく物語でした。

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会社員の實成は、父を亡くした日から得体のしれない不安(「モヤヤン」と呼んでいる)にとり憑かれるようになった。そいつを遠ざけるため夜の道を歩く實成。
やがて、ウォーキングメンバーは増えていく。

それぞれが、様々な不安を抱えて、夜の道を歩く。
その距離感がなんとも良い。
本人が話したくなるまで踏み込まない。
でも、いざとなったら、他人だけどとことん助ける。

私も毎週一回、友達3人と夜にウォーキングをしています。
始めてから5年になりました。
夜のウォーキングって、なんか不思議な力がある気がします。
あまりお互いの顔が見えないし、
賑やかな場所もあるけれど、
ここ本当に東京?と思うほど、
誰もいない森の中の小道もあったり、
昼間は意識した事がない川の音が迫ってくる気がしたり。

そして、心理的にも、歩きながら、
なんだか色んな話が出来てしまう。

彼らも夜に出会ったから、
黙々と歩く、という行為が、
心の距離を自然に近づけることになったんだと思います。

夜の散歩には癒しの力があると思う。

そっと励まし合って、
それぞれの日常へ戻っていく。
月夜に包まれて、
日差しの中へ進み出る勇気をもらう。

心の中でつぶやきたくなる。
みんな、頑張れ。
そんなお話でした。

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寺地さんの書く男性主人公が好きだ。
飄々として静かだけれど、中に一本芯が通っている。この本の主人公、實成(みなり)くんもそんな性格の30代男性。
「善く生きる」ことについて考えながら生活している、真面目な人だ。

会社の同僚の塩田さんと、塩田さんと同居している中学生の女の子と、偶然夜中の散歩中に出くわしたことがきっかけで、一緒に夜の散歩をするように。
やがて散歩仲間は少しずつ増えていく。
ひとりでいるのが少ししんどい時に、一緒に歩いてくれる人を求めて、自然と集まり、また自然と解散していく。
その縛られなさ、自由さが良い関係だなと思った。

一見ニュートラルで何事にも動じなさそうな實成くんだが、物語の終盤で、いつもと違う行動を取る瞬間がある。
中学生の女の子に呼び捨てにされ続けるのが気に入らないと伝えたり、頑なに避けていた実家に帰省したり、不躾な態度をとる先輩に「何がおかしいんですか。感じ悪いですよ」と立ち向かったり。
何が決定的な大事件が起きたわけでもないけれど、散歩仲間と語らう中で、あるいは日々の生活の中で、時間の経過とともに、彼の中で少しずつ変化していった何かがあった。

きっと多くの人の人生は、實成くんのように、本人も気づかないうちに変わったり変わらなかったりする。
この本は、そんな波瀾万丈「じゃない」人の生き様の美しさを描いている。

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父の遺言「善く生きる」を考えつつ日々を過ごす實成は得体の知れない不安を抱えている。それを払拭するために深夜の散歩を始め、同僚の塩田さんと中学生の熊(呼び名)と出会う。元カノと管理人も加わり、それぞれが抱える問題を知り、一歩踏み込んだ関係性が生まれていく。實成はまじめ=つまらないとされても、まじめである方がよく、まじめが悪口になる世界は間違っていると思っている。私もそう思う。自分にも相手にもまじめに真摯に向き合う。そこで生まれる関係は信用に値する。寺地さんの言葉がグッとくる。

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「善く生きるとは。」
そんな言葉を胸に抱えて生きる實成の”長い旅”の話。
淡々と流れる日常の景色に最初はちょっととっつき難いかと思いましたが、
気がついたら苦悩の中を生きる人たちへの優しい眼差しに惹き込まれていました。
温かい余韻が残る読後感。
自分の道を踏み出す背中を押してくれるような素敵な話でした。

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「善く生きるとは」
それを考えながら、何かモヤッとしたモヤヤンを抱え、夜の散歩をする主人公。
出会うべきして出会って増えていく同行者。
皆、悩みを抱え、お互い、知らないことも多いけれど、道を自ら選び、進んでいく。モヤヤンの影は薄れ、「いつも月夜はありえないけれど、月夜じゃなくても歩ける」ことに気づき、いつか月夜をそれぞれ求め各々の道を進んでいく。それぞれの登場人物に感情移入でき、考えさせられる作品でした。

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實成は父親が亡くなった時から何か不安定な気持ちで生きてきた。
「良く生きろ」ではなくて「善く生きろ」と言われてきた。
自分の為ではなくて人の為に生きろということで「善」にした。
同じ会社に勤めていた年上の彼女である伊吹と別れたのも、当たり障りのない行動をとる實成が原因である。
そしてあるきっかけで實成と伊吹と会社の同僚である塩田と塩田とは血が繋がっていないが一緒暮らしてる彩夏と伊吹が住むアパートの管理人松江の5人が夜の町を一緒に歩くようになる。
この5人の周りに絡まってくる人達も興味深い方ばかりで、生きていくことはなかなか一筋縄でいかないけどとても面白いことだと勇気をもらえる。
寺地さんの本は本当に読んでて先が気になってどんどん読み進む。

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男女、性別、年齢問わず、人から掛けられた言葉が澱のようにたまっていくことは多々あると思う。いちいち、おかしいと声をあげるほどでは無くても。
もやもやした眠れない夜の散歩を通して、出会った人たちの抱えているものを知る。それを簡単に「わかる」とも言わない、無責任に励ましたりアドバイスしたりしない主人公に好感が持てました。
ゆっくり月に照らされるような、読み応えのある作品でした。

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あぁ、また大好きな寺地はるな作品が増えてしまった。どこまでもありがたい人生です私は。
やわらかな光。スッと響く言葉。心許ない時、そっと手をつないでくれるあの、安らぐのに必要なくらいの強さとあたたかさのような。
読みながら、いっしょに月夜を歩いているような気持ちになりました。恐れのない暗がりを、ほんのり明るい気持ちで、心の歩幅で歩くように。
なんだか読書って、ウォーキングみたいだなって思いました。似たような景色を巡って、記憶を重ねたり思考を照らし合わせたりして、息を整えていく。遠ざかるために、近づくために、歩く夜の散歩道。どこに行ったでもない、同じ場所に戻ってきても、何かが変化している。そんな歩みがどこまでも心地よかったです。
「善く生きる」ために、これからの人生この作品と共に在りたい。そう思いました。

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主人公の實成は、真面目で、ちょっと優柔不断に見えるところがあるけれど、とても優しい人だと思った。ひょんなことから会社の同僚塩田さんと、塩田さんとは血のつながりはない中学校不登校の女子・熊と夜の町を歩くようになり、気づけば元カノの伊吹さん、伊吹さんのマンションの管理人松江さんが加わっていた。どこにでもいそうな普通の人たちだけど、それぞれに悩みを抱えていた。当たり障りのない生活を送りたい反面、譲れない者もある實成だった。ヤキモキしながらも、ほっとした気持ちになったエンディングだった。寺地さんは大好きな作家さんです。文体が自分に合っているのか、とても楽に読むことができます。これからも応援していきます。職場(中学校)の先生達にも薦めています。

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散歩がモチーフなのだが、主人公の男子と、職場の中年女性と同居する中学生の女子。最初はこの三人の散歩が、元カノが加わりゲイの家主まで加わるというバラエティ豊かな展開。途中で出てくる深夜営業の猫の何とかという洋菓子店が実在するのか、それとも物の怪のしわざなのか、あの一度しか行けなかった店がやたらと気になった。みんな事情はある自分らしく自分として生きていかないといけない。寺地さんはいつも重い話しが多くしんどいのですが、本作は少し軽くて好みです。

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「無理しないでね」って、なにもしてあげられないときに、せめて寄り添う気持ちを表して話を一区切りさせるための言葉だ。
場つなぎ的に潤滑油代わりに発せられる言葉の数々に、思わぬ鋭い返しがあったりして、ドキッとする。

夜に集まって、一緒に歩く。
夜って、歩いてるときって、普段なら言わないことをふっと話してしまうよなぁ。
作中にはわりと負の感情も出てくるけど、それを持ち寄って歩くことで浄化されていくような、不思議な心地よさが残りました。

いつもじゃなくて、いつか。
そんな心持ちで気楽に歩んでいけたらいいな。

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登場人物それぞれの情報量が多い。多いけど嫌じゃない。そして人間てこんなもんじゃないだろうか。
あれよあれよと人間関係が広がり職場の人とその子ども(血の繋がりのない)元カノと元カノのマンションの管理人と夜中の散歩が始まる。
始まりがあれば終わりもある。心地良い読み心地で物語の収束が近づくのが寂しくなった。
みなりの心の機微が繊細で頷けるし、ウィットさにもクスッとなる。
激しい波がある物語ではないけれど優しく残る話だと思う。作品全体の醸し出す空気感がすごく好きでした。

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父親の死をきっかけに、
得体のしれない不安「モヤヤン」に
取りつかれてしまった、会社員の實成。

特に夜になるとやってくるモヤヤン。
あるある。
何でしょうね、夜って静かすぎて
思考が全部内側に向かっていくような気がする。
夜に手紙を書いたりすると、
朝になって読んだらこっぱずかしくて
とても出せないような内容になっていたり・・・。
哀しみや辛さが、
倍増してしまうこともある。

そういう時はひたすら歩く。
何も考えずに黙々と。

昼間だったら、歩くとセロトニンが出ていいとか聞くけど、
夜は思考を落ち着かせる雰囲気があっていいなと思います。

コンビニや街灯、まだ起きている人の
部屋から見えるあかり、そして月明かり。
小さな光が、哀しみや辛さを包み込んでくれる気がします。

歩くことに集中する。
考えすぎず、今に集中する。
そうやって毎日をすごせていければいいな。

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『令和版 夜のピクニック』

夜道をただ散歩する物語と書くと恩田陸さんの名作を彷彿とさせる。本書はそんな名作に負けず劣らず令和版 大人の夜のピクニックと言えよう。(寺地さんの本意ではないかもしれないが、)登場人物たちの珠玉の言葉の数々は寺地はるなさんらしい一冊だと感じた。

まず主人公の實成さんがとても好きだ。草食系あっさり令和男子の代表格のような優男である。「善く生きる」をモットーに誠実さが随所ににじみ出ており、読んでいてとても清々しさを感じた。

また、「何者にもならなくていい」、「自分が納得する自分らしい生き方をする」、「人と比べる必要はない」といった自己肯定感を大事にする登場人物たちの生き方は、忙しい現代人へのアンチテーゼともとれる。読者一人ひとりに響く言葉・文章がきっと見つかるはずだ。

みんな様々な物を抱えて生きている。でも少し視点を変えると、今の時代はとても自由で色んな選択肢がある。本書はそれに気付かせてくれた。誰のためでもない、自分のために生きる人は美しい。穏やかで優しい一冊は、寺地はるなさんの新たな代表作になると確信している。

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他人と夜の町を歩く。健康のためでもなく、娯楽でもなく、ただひたすら歩くさらさらとした時間。友人でもなく恋人でもなく、知り合いレベルの人と歩く静かな町はどこか清々しくて、實成のモヤモヤした気持ちまで整えてくれる。
いつも月の光が届くわけではないけど、様々な明るさが心の拠り所となり、また新しい場所へ踏み出す一歩を照らす。
優しい、善く生きる、という一見口当たり良いラベルがどう影響してくるのか、に正面から『ほんとうに?』と投げかけているようで、読んだら、今までより少し息がしやすくなるような作品でした。

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「いつも月夜に米の飯」って?
人生ってそううまくはいかないってこと。主人公の實成は「モヤヤン」と名付けたもやもやを抱えて生きている。ある夜から始めた散歩。共通点があるわけでもなく集まった、悩みを持つ人たちと交流を深めていく。
だれも私を、私のこころを決めつけないで。優しさすら、押しつけになることもある。夜の散歩仲間たちと實成との関わりから「何者にもならなくていい」、それぞれに生き方があるんだという寺地さんからのメッセージを感じた。これは、あらゆるバイアスから解放される物語だ。

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人の一挙一動に勝手に意味をつけてしまうことがある。私から見たその人に、勝手に自分の気持ちを乗っけてしまうことがある。

「優しさ」だったり「愛」だったり、
わかりやすく伝わりやすい、なんとなく
大衆の正解があるものを相手に期待したくなる。そんな自分に気がついてがっかりしたりする。

私が私自身の荷物だけを持つ強さを得るまでに、あとどれくらい月日を重ねたらいいのだろう、と不安になる。そんなとき、この本の主人公のことを思い出したい。
行き場のない不安の拠り所になってくれる気がする。
誰かに相談するのは気が引けるけれど、
一冊の本の中を思い浮かべて心が落ち着くのはしんどくない。
そんなときに思い浮かべるような作品がまた一冊増えたことが純粋に、嬉しい。

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塩田さんの娘ではないという中学生くらいの女の子・熊も交えて、定期的に行われるようになってゆく深夜の散歩。やがて何とも不思議なめぐり合わせから再会した元カノの伊吹さんだったり、彼女の住むマンションの管理人・松江さんといったメンバーもその散歩に加わるようになっていって、お互いに寄り添うような彼らの距離感が良かったですけど、それぞれが抱えている複雑な事情は影響を及ぼさずにいられなくて、迷いながらも向き合う覚悟を決めてゆく中でもたらされたその結末には確かな希望があったと思いました。

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