君が手にするはずだった黄金について
小川哲
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刊行日 2023/10/18 | 掲載終了日 2024/04/10
ハッシュタグ:#君が手にするはずだった黄金について #NetGalleyJP
内容紹介
認められたくて必死だったあいつを、お前は笑えるの?
大学院生の僕は就活のESで手が止まった。「あなたの人生を円グラフで表現してください」。そこに何を書くべきなのか、そもそも僕はなんのために就職するのか?恋人の美梨は言う。「就職活動はフィクション。真実を書く必要はないわ」(「プロローグ」より)
本好きの就活生「小川哲」と恋模様を描いた冒頭作を皮切りに、「小川哲」は怪しげな人物たちと遭遇する連作短編集。青山の占い師、80億円を動かす金融トレーダー、偽ロレックスを巻く漫画家たち……。
彼らはどこまで嘘をついているのだろうか。いや、嘘を物語にする「小川哲」は、彼らと一体何が違うというのか?
才能に焦がれる作家が、自身を主人公に描くのは″承認欲求のなれの果て″―――。
おすすめコメント
いやーこの作品、本当に本当に面白いんです。
我々はなぜ本を読むのか?小説家と嘘つきに違いはあるのか?さて、小川哲とは何者なのでしょうか?
『地図と拳』『ゲームの王国』で小川さんのSF世界を堪能してすでに小川哲沼にいる方にも、『君のクイズ』を初めて手に取ってエンタメ作品として楽しんだ方にもどちらにも、
つまり小説を愛するすべての人に読んで欲しい作品です!!
今年の傑作といって間違いないでしょう!ぜひお時間をこの作品のためにください……!よろしくお願い致します。
販促プラン
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出版情報
発行形態 | ソフトカバー |
ISBN | 9784103553113 |
本体価格 | ¥1,600 (JPY) |
ページ数 | 256 |
閲覧オプション
NetGalley会員レビュー
私小説の仕立てをしているが、巧みにフィクションにしているケレンの作品。小説を読む楽しみをつくづく感じさせてくれるのが清々しい。
「君のクイズ」もリサーチが行き届いた上に想像力が張り巡らされた作品と感心したが、他のどの作品もがユニークで素晴らしい作家。
人生を受け入れることを意味する就職活動に身が入らなかった大学院生の小川。
それはまた社会という犯罪に加担することを意味していた。
小説家に必要なのは才能ではなく、才能のなさなのではないか。
人間としての欠損が小川を創作に至らしめる。
誠実に嘘をつこうと努める小説家の物語。
なんだ、なんだ!これは、実の小川哲さん?!
改めて著者の名前を見返すと、やっぱり「小川 哲」と記載されている。
小説?それともエッセイ?と半信半疑のうちに読み進めたが、
<あなたの人生を円グラフで表現してください>の一文から始まる一番目の短編「プロローグ」から一気に惹きつけられた。
“大学院生の僕”は、読書リストを更新しているが、何のために更新しているかと疑問を抱く。
そこで、長年のつき合いである彼女と読書を通しての会話、エントリーシートの作成、塾生の「宿題とは、自分のためにやるものである」という言葉を通してある答えにたどり着く。
それは今の人生つながっていて、僕の振り返りで締めくくられる。
小川哲さんの著書を読んだのは初めてだったが、全編を通して“僕”の視点にはっとさせられた。小説家でなくとも、書くこと、読むことに関心がある人には
共感する点が多々あるだろう。
詐欺師も登場するなどエンターティナー性もあり、想像力がフル回転で止まらない!!!
まんまとはまってしまった。
主人公の名前が「小川哲」で小説家だと分かったあと、これはフィクションだと思いながらも、頭の隅に「これは作者の小川哲さんの実体験を書いたノンフィクションなんじゃないか」という目線で読んでしまう自分がいて、それがまた嘘とは何か?本当とは何か?騙すとは?と問うてくる作品の内容と相まって、ますます混乱する。
どの話も決して「嘘をついた人にばちが当たってスッキリした!」という爽快感はなく、それどころか、全部分かっても、「悪い人」と言いきれない。
全部が嘘でできている「つくられた話」には、本当に一片の真実もないのか。
「ある」と言いたいけれど、簡単に「ある」と言うのも、なんだかそれ自体が嘘くさくなってしまい、そのうち、「嘘って何だろう」ともやもやしたまま、私の思考はストップしてしまう。
そんな不思議な感じが読後も続きました。
あまり関係ないのですが、読んだ後、ゲオルク·ジンメルの「いかなる意味でも文学者ではなく」を思い出しました。
小川哲による私小説のような6編からなる短編小説集です。私小説ですが、フィクションが織り交ぜられています。どこまでがフィクションで、どこからがノンフィクションなのか読み手が試されているようです。各作品で、嘘を語る人物や虚構が登場しますが、それらと対比して、作家の仕事とはどういうものか? 作家とはどういう人間か? といったことが示されます。最近、私小説を扱った文芸作品は多いですが、新たなジャンルを構築し、表現する短編集だと思いました。
小説かと思いきや、自叙伝のような。。。。
小説なんでしょうけれど、小川さんの考えていることや考え方がめちゃくちゃ面白くて、
これはホンモノの小川哲が考えていることなのか
小説の中の小川くんが考えている設定なのか
?が頭をぐるぐるしながらも、読了。
見事にはめられたような気がしますが、読後は爽快です。
でも登場人物がたいていめんどくさい男たちで、
つきあったらめんどくさそうだな~
でも居酒屋で隣の席だったら、聞き耳たてちゃうよな~と思ったり。
最高でした。
作者と同姓同名の作家、「小川哲」を主人公に置いた、私小説ともフィクションとも読める連作短編集。
主人公を主体とした話はもちろんのこと、その彼とほつれかけの糸で結ばれた面々が、作家としての好奇的な疑問や違和感から、人となりや内面、さらには主人公自身がなぜそこに疑問や違和感を抱いたのかを、緻密に分解されていく過程がとても面白かったです。
物語としては、日常のよもやま話になりそうなエピソードばかりなものの、主人公がそれをただの世間話に終わらせず、精神世界の領域にまで踏み込むほどのある種、考察的な思考が、読者である私自身の知的好奇心をも満たして、読み応えにも直結させてくる快作でした。
個人的には、誰にでもある無意識的な忘却を掘り起こそうとする「三月十日」がエピソードとしてはかなり好みですが、他のお話も粒揃いであるため、一冊の物語として、ぜひ通しで読んでもらいたい本だと感じます。
先述のように、本作は私小説ともフィクションとも読めるお話で構築された連作短編集となっており、読者の視点から抱く違和感もそこかしこに散らばっています。
エピソードごとの登場人物に繋がりがあり、人物としての描かれ方に違いはないものの、なにか世界線が食い違っているように見えてくる。果たしてこの主人公は、実際の作者なのか、それとも物語としての「小川哲」なのか、そもそも各エピソードの「小川哲」は皆同一人物なのか。本書の主人公と同じように、違和感を解体してみるのも一つ、楽しい読み方なのかなと思いました。
読み終えて考えを巡らせたい気持ちは山々ですが、まずはクレジットカードの確認をしたいところです。
小川哲さんと同い年なので、小川さんの綴る若い頃の話にとても懐かしさを覚えました。
mixiやインターネット開通の頃なんか特に。
直木賞作家の頭の中を覗いた気になれる不思議な面白さが詰まっていました。
この作品はエッセイなのか、フィクションよりの物語なのか、全てが創作なのか、販売する時に売り場を迷いそうです。そうか、エッセイコーナーにも文芸コーナーにも展開すればいいのか。
インスタグラムのリンクが何故か貼れないので、アカウント名を載せておきます。
@mariezombie
私は騙されたのでしょうか?
フィクションとノンフィクション。
現実と虚構。
嘘と真実。
頭が混乱します。
どこからがフィクションでどこからがノンフィクションなのか。
小説の中の「小川哲」と実在の「小川哲」は全くの別人ですか?
なんてことを考えている時点で、完全にこの小説に引き込まれているのでしょう。
だから本を読むのをやめられないんですね。
とても面白かったです。
この人は本当に天才だと思った。
一つ一つの章はどれも大きな出来事は起きないのに全て面白く、
私小説風の、エッセイかのような軽やかな文章。
めちゃくちゃ面白かった!
個人的なお気に入りは片桐くんとババさんでした。
相反する概念が繊細に美しく表現されていて、普段表に出さない心の奥に潜んでいる感情の層を一枚一枚丁寧に剥がされ、丸裸にさせられてしまった。
これは私達の人生が詰め合わさった作品だ。
読み終えた後、煮沸された自分に出会えた。
これを読み終わった後、恐ろしくなった。自分とは現実とは、何と不確かなものか。
東大の大学院生の僕、本好きの小川哲の一人語り。彼は就職を思い立つが、出版社のエントリーシートにある「人生を円グラフで表す」ことに囚われていく。その過程で、僕は僕の人生の記述を変え、更に名前も捨てていく。現実感が薄れていくこの物語は、誰の一人語りなのか。小説家「小川哲」の? 「小川哲」が創出した院生『小川哲』の? その『小川哲』が今書いている小説の主人公〈小川哲〉の?
いつの間にか、読者は語り手と共にメタフィクショナルな迷宮に足を踏み入れ、抜け出せなくなっていた。
そのまま、誰ともわからなくなった[僕]の一人語りが続いていく。
全ては人の記憶の中にあってはじめて「存在」が認知されるもの。存在がなければ、探し出しあるいは創り出してまで存在を強要するもの。震災の前日「10月10日」の存在がまさにそうだった。
更に[僕]の一人語りが続く。占い師、トレーダー、漫画家。彼らの言うことは語りなのか?騙り=偽物なのか?
そして、最後にエッセイを書く中でさえも、[僕]のアイデンティティは迷宮の中へと失われていく。
そのような迷宮の連作だからこそ、[僕]が語った「小説家が追い求める偽物」と「それに必要な才能」のことが、心にズシンと響いてきた。
「君が手にするはずだった黄金について」読了。☆☆☆☆☆ 奥付に発行2023年10月5日とある、私は未来に出る本を読んでいる。もっとも電子書籍だから物理的には存在しない本を。これってタイムトラベル、私は著者小川哲のよい読者ではない。以前に読んだ「君のクイズ」について「これは小説というより論理学のテキストのような内容」と書いたが最後に「著者小川哲の本を続けて読みたくなった」結果が今回なのだから。著者の名前「哲」が本名かは知らないがウィキペディアに「大学院在学中は、数学者・論理学者のアラン・チューリングについて研究した」とあって納得。要するに私とは全く違う人間、だから読後感もシジミの味噌汁を飲んで舌に砂が残ったような違和感がある。でもこの饒舌な文体は癖になる。
小説家でも俳優でも、どれだけ上手く成りきるかだ。でもなりきれない部分はきっと確かに絶対ある。そこが自分自身の核というものだろう。でもその核はたいていの場合、自分のことながら自分ではなかなか掴めない。
「嘘」を主軸に、その裏に「自己の実存性」という隠れた主題がある。もし自身の核が少しでも認識できていれば、登場人物のように贋物で虚勢を張ることもないし、主人公のように自己の存在に懐疑的になることもないだろうに。
主人公の名前が「小川哲」で小説家だということなので私小説なのかなと思いながら読んだ。小説家になったきっかけを描いたプロローグのあの鬱陶しい雰囲気と彼女との距離感が好きだ。それから偽物のロレックスをしている漫画家との話しとか、高校時代の友達の80億円を動かす金融トレーダの話しも、とても興味深く、この独特な世界観と濃密な人間関係に衝撃を受けた。好きな作家さんが、また、産まれたと感じました。この本はとても面白い。
私は読書家ではないし、名前は知ってても読んだ事ない本は沢山あるし哲学にも興味ないので、正直プロローグで挫折しそうになった。
でもこれは…。
天才!?
どこまでが本当なのか訳がわからなくなったけど、そんな事はどうでもいい。
小川哲さんという作家に惚れてしまった。
そんな一冊。
全く感想になってないけれど、頭が良い人って考え方が面白い!
それぞれの話が少しずつリンクしていて、主人公は作者らしく、現実なのか虚構なのか迷いながら読み進めた。登場人物それぞれの内面の吐露が優れていて、心をえぐってくる。時に切ない思いをさせられた。また、普段思ってはいるけれど人にはあえて言わないこと、それも真理と思えるような言いにくいことを提示してくるので読んでいて苦しさを感じ、素晴らしいなと思った。
これは私小説なのか、フィクションなのか。もうその境目すら曖昧に思えてくるのだが、とにかく面白いその一言だ。「小川哲」とはいったい何者なのか。そもそもこんな思考過程で小説を書いているのだろうか。そう思いながら読んでいたら楽しくて2回読んだ。この楽しさを誰かと分かち合えないのが残念でならない。
『地図と拳』『君のクイズ』も読んだが、どちらも全く違うジャンルなのにとても面白かった。
そして今作、多彩なジャンルを書く小川先生の思考過程の一部を覗き見たような気がしたが、それさえも幻影なのかもしれない。
どこまでが「嘘」で「真実」なのかもうどちらでもいい。こんなに楽しいと思える作品が読める幸せを味わうことができた。
wish当選ありがとうございました。
小川哲さんが主人公の私小説と聞いて興味を待ち読み始めましたが。
読後はこれはどこまでが実体験でどこからが虚構なのか?
そもそもこれは「小川哲」本人なのか、それとも作られた「小川哲」なのか?
…なぁーんて事に気を取られるのは野暮だなと思いました。
この曖昧さが楽しいです。嘘に翻弄され、そこに隠された真理に触れて心を揺さぶられました。
大変面白かったです!
なかなかない読書体験だった。
短編集で、正直どの話も特に盛り上がりがある訳ではないのにとにかく面白い。
そんなことができてしまう著者の筆力に脱帽する。
話自体は著者自身を主人公とするノンフィクションなのかフィクションなのかはっきりしないが
そこがまた引き付けられる部分であったりしてまんまと著者の術中にはまってしまっていた。
哲学的な話で自身のアイデンティティに悩み葛藤する様は青春を今一度思い起こさせてくれた。
君が手にするはずだった黄金について/小川哲 新潮社
ー 小川哲の思考力が凄いのか…、それとも小川哲の創造力が凄いのか… ー
就活の「あなたの人生を円グラフで表現してください」のレポート課題から、
なぜか、小説を書き始める小川哲。そして・・・
飲み会で、あの3月11日の前日に何してた?の軽い話題から、
なぜか、全力で思い出そうとする小川哲。そして・・・
占い師が・・・そして・・・
実業家として成功した学友が・・・そして・・・
贋作を身に着けた漫画家が・・・そして・・・
新しい小説のネタを考える日常が・・・そして・・・
どの話も、友人から思い出話を聞いているように感じ、のめり込んで読んでしまう。
どの話も、思ってたんと違う感じでオチがあり、そこにリアリティを感じてしまう。
そして、読み終わった後。はっ、と気付く。あれ実話と思って読んだけど、これ創作?
どこまでが実話、どこまでが創作、まったく分からない。
これは、小川哲が何者なのか?を感じられる一冊です。
でも何者なのか分かる一冊ではございませんので、ご注意を。
しかし、一つだけ分かることがあります。
地図と拳、君のクイズ、この一冊も含め、小川哲の小説はどれも面白いということです。
素敵な物語をありがとうございます。
#フタバ図書 #読了 #NetGalleyJP
東大の大学院生で、小説家。
主人公の名前は、小川。イニシャルはS。
何度も、これはエッセイ?私小説?と確認した。
主人公である小川が考えていること。
就活、恋愛、SNSを炎上させた同級生。
冷静な視点から語るその考え方は、
哲学的でもあったりして。
大長編の直木賞受賞作には手を出しにくかった
方も、この本なら読みやすい。
エッセイのような読み心地の短篇集。
この本を読めば、小川先生の頭の中を
ちょっとだけ覗ける!
哲学してるのに小気味よい。
そして"小川哲"が顔を出し……これは私小説か?フィクションか?
涼しい顔して読者を翻弄する、その手のひらで転がされているような感覚がが面白く、改めてこの作品で小川哲さんのトリコになりました。
冒頭の1行目からもう引き込まれた!主人公と作者は同一人物なのか、どこまでが本当で何が嘘か、そもそも小説家とは何ぞや?など、前提や根本から当たり前を疑うが如くの発想がさすが作者だなぁと思った。考察の鋭さ展開の意外性に加えて、どこまでも可能性を追求する粘り強さや何を信用するかまで、聡明な作者の頭の中や心中を覗くような感覚で、大変面白く読み進めることができた。表題作の他に受賞エッセイも含む全6編の連作短編集。随所に目から鱗の考え方や名言があり、それを自分の内に刻むほどに親近感も湧く。充実の新しい読後感!
私小説かと疑う6篇で構成された短篇集。内容をまったく知らずに「小川哲」という作家名だけでリクエストしたため、冒頭のやけに長い「プロローグ」に驚き、続く「三月十日」で屁理屈っぽいのに説得力がある妙な読後感に感心した。以後はその掌中でいいように転がされた感じだ。特に表題作の摩訶不思議さにやられた。
小川さんの作品はこれで3作目だが、どれも外れがない。本書では作家論や創作技法まで踏み込んでいるが、本当に小川さんの思考なのか、それとも作中の「小川哲」という作家のものなのか判然としない。作中の人物や出来事も含め、小説を読む愉しさを堪能した。
友達、恋人、仕事、書物といったモチーフで人生の個々の偶然的な一場面をつないでいくような連作短評集でした。少し淡泊かなと思う瞬間もあったのですが、その淡泊さを黙々と読んでいると、それだからこそ見えて来るものもある気がしました。小川さんにはこれまでも、いきそうでいかない気持ちよさみたいな感触を持ってきたのですが、その感触がアップグレードされ次の段階にいっているように感じました。
私小説なんですよね?
主人公の小川さんは、作者
ご本人なのか、そうでないのか。
読み進めて行くうちに、
どっちでも良くなってしまいたした。
これが作者の狙いであれば
まんまと引っ掛かってしまいました。
登場人物たちが、みんな個性的で
魅力的でした。
初めて読んだ小川さんの小説。
私小説のような形態ながらきっと違うのだろう、とか実際にあったこと、したことだと自分が認識していることすら記憶ごと捏造できてしまう人間って何?「私」って何?…のように精神の深淵に引きずり込まれるような作品。
個人的には好きですが、人を選ぶかも。
作中の「小川」さんの、人間(自分も含めて)に対する冷徹な観察眼、距離の取り方、無闇に他人と繋がろうとしないところから何故か目が離せなくなります。
小川哲さんによる、ノンフィクションのようなフィクション。
6編の連作短編集です。
淡々とした文体の中に、主人公の疑問や違和感が語られていき、その思考に絡めとられていくような感覚!
読み終わっても「現実はどっち?」というような不思議な感覚が残る作品でした。
どっぷり浸りましたね。
ありがとうございました!
小川哲に本作から入る人も珍しいのかもしれない。
『君のクイズ』は読もうと思って買ってあったけど、積んだままになっている。すぐにでも山から取り出さないといけないと思った。小川哲は面白かった。
でたらめの話をでっちあげるエピソードがあったが、当然本作全体がでっちあげの可能性もあるわけで、でっちあげのマトリョーシカだと思った。最後の最後に出てくるものが希望だったらパンドラの箱だけど、なんだかもっとどうしようもないものが入っているような気もしている。
本作のどこからどこまでが実際のことか分からないけれど、頭の先からしっぽの先まで気持ちのよいでっちあげが詰まっていた。
小川哲は面白かった。
「春の目玉作品が『成瀬』なら秋の目玉作品はこちらになります!」との、NetGally様からのおすすめメールで拝読しました。
特設サイトも拝見しましたが、色とりどりの目をひく装丁と、朝井リョウさん、宇垣美里さんからのコメント。
これだけ大々的にPRされるのが納得の1冊。
"認められたくて、必死だったあいつを、
お前は笑えるの?"
印象的だったこの言葉が、何度も頭の中を駆け巡る。
主人公の名前が「小川哲」なので、フィクションなのか、ノンフィクションなのか、ところどころで分からなくなる。
あなたは、いったい誰?
面白かったです!
「小川哲」を主人公に、たわいない日常を私小説仕立てに描いた連作短編集。「小川哲」による「小川哲」の楽しみ方をレクチャーする取説のような作品。
『君のクイズ』と共通して、具に思考を覗けるちょっとした背徳感を味わわせてくれる、「小川哲」作品の最大の特長が本作でも炸裂していた。ふと蘇る、傍から見れば些末な失態に叫びたくなる衝動など、共感と面白さと少しの苦さがあってクセになる。
神経質そうなのに適当で、知りたがるのに関心がない。嘘なのか真実なのか掴み所がない展開に翻弄され、踊る私たちをまた「小川哲」が料理する、そんな未来が見えた気がした。
小川哲さんの文章を初めて読みました。6つの短編小説?私小説?エッセイ?読んでいてとても心地よくて、ずっと読んでいたいと思いました。他の作品も是非読みたいです。#NetGalleyJP#君が手にするはずだった黄金について
本当の小川哲さんという人物の話なのか、架空の小川哲さんという人の話なのか、自分でもわからない感じで読ませてもらいました。初めての感じを受けるお話でした。主人公の事もそうですが、何か大きなことがあった思い出の
前日は自分は何をしていたのだろうか、確かに覚えていない。また、自分は本物なのだろうか。偽りの形は無いのだろうか、ちょっと不安なってしまうことがあったり。でも本物なんだと思えたり。
今まで考えたことない事を考えた一冊でした。面白く読ませて頂きました。
エッセイもしくは私小説かと思うような内容の連作短編集です。
主人公の名前や経歴からノンフィクションかと思いきや、実は小説で、でももしかしたら事実も描かれているのでは・・・と思いながら読むと、何が事実で何が虚構なのかわからなくなって、そこが面白いと思います。
面白い、と言ったしそう思ってはいますが、特に「君が手にするはずだった黄金について」の片桐と、「偽物」のババに関しては、なんだか哀れというか悲しいというか、実際にこんな人物が身近にいたらどう対応していいかわからなくなると思います。
「そんなことをしてなんになるのか」と言っても「そうせざるを得なかった」としか言いようがないのかもしれませんが、これは虚構であってほしいと願わずにはいられませんでした。
承認欲求は持ってはいけないものではありませんが、度が過ぎると本人も周りの人も幸せにならないと実感させられた点では、エッセイと呼べるのかもしれません。
大勢の読者の意見を聴いてみたいです。
小説家の「小川」を主人公とした連作短編集。日常の出来事と思考に知的なユーモアとペーソスがまぶされ、どの話もとても面白い! とくに、投資詐欺で炎上した同級生とのささやかな交流を描いた表題作は、何かになりたかった男のひりひりした焦りともがきが我が事のように感じられて、印象的でした。
各話ごとに緩やかなつながりがあり、大学院生から山本周五郎賞候補に至るまでの自身を描いた私小説、またはエッセイのように読めるけれど、各話で「現実を元に嘘をつく」行為と「小説を書く」行為のつながりが語られるので、読者は書かれていることが現実なのか創作なのかわからなくなり翻弄される。その奥行きが小説家小説としてとても魅力的で、やはりすごい作家だなと思わされました。
小川哲の小説作法が垣間見える短編集。小説家や小説家を目指す大学生が奇妙な人物と交わり、その虚構と謎を解きながら、小説家である自分もそうでないかと考える。震災前日の3月10日、何をしていたのか記憶を辿りながら、自分の曖昧さを自覚したり、「どちらの小川さん?」と質問され、私はいったいどちらの小川さんなんだろうと考えたり。小説としても面白く、小川哲の思考回路を知るという点でも興味深い短編集だった。そういえは、私は3月10日何をしていたのだろう。3月11日のことは、しっかり覚えているのに。
これって小川さんについてのノンフィクションですよね??
怪しいお友達や漫画家さんなど”嘘”を巧みにつく人たちを
面白おかしくそして真面目に書かれてあって面白かった。
小説家が本人のことをエッセイでなく文庫にすると
こんなふうな仕上がりになるのかなと堪能した。
他の本ももちろん追いかけて読みます。
#君が手にするはずだった黄金について
#NetGalleyJP
作家というものは果たしてどういう者なんだろう。
小説のようなエッセイのような、
境界線があるようでない不思議な一冊でした。
小川さんの作品は、とても特異なところにあります。
ざっくりと内容が言えてしまうテーマだけど
読めば読むほど味が出る、深みも出るような
言葉に関してとても立体的に捉える作家さんだなと思います。『君のクイズ』がそういう意味で特別だったので今作も読んだ次第です。
いろんな作品を読んでいきたい作家さんです。
個人的に待望の著者初の作品を味わいました。本屋大賞にノミネートされた『君のクイズ』が面白そうで購入はしたのですが、積ん読状態が続いていた時に次作を読む機会を与えていただき感謝感謝です。数ページを読み進み、どこまでがフィクションでどこからが著者の創作か思わず内容紹介を読み返すくらい何だかリアル感いっぱいの作品ですね。これが小川哲ワールドなのかと堪能させていただきました。
じゃ、ない方の小川哲もやっぱりスゴイ!
最初に読んだ小川哲作品は『ゲームの王国』。次に読んだのは『ユートロニカのこちら側』。なので私の小川哲氏のイメージは、設定を作り込んだスケール感のあるSF作品を書く作家(未読だが直木賞を受賞した『地図と拳』も壮大な歴史モノのようだ)だった。のだが、別冊文藝春秋に掲載された自伝的青春小説『walk』を読んで、現代を舞台とした短編もとても面白いと知った。そして、今作を読み終えて改めてその思いを新たにしている。
■プロローグ
私小説のような、就活中の大学院生の話。エントリーシートの設問についての考察から、クリプキ的な現実解釈まで思索が広がり、それは現実世界での、モラトリアムから実社会へと足を踏み入れようとする若者の戸惑い、違和感、不安感を織り交ぜながら、ある女性との関係、そしてほの苦い結末へと結び付く。淡々とした二人の関係の向こう側に、人生と、その人生で手に入らなかった可能性が見える。
■三月十日
震災の前日=三月十日の失われた記憶を取り戻すまでを描いたミステリー仕立ての恋愛小説。混濁し、捏造され、歪められた記憶の奥に見つけた真実が、現実の、今の<僕>につながる展開が鮮やか。
■小説家の鏡
友人に頼まれてインチキ占い師の欺瞞を暴こうとするが……一つ前の「三月十日」のエピソードとリンクして、虚構と虚構の間を行き来する展開が面白い。
■君が手にするはずだった黄金について
令和版、『華麗なるギャツビー』。虚構の富に生きた高校時代の友人の転落までの顛末。ギャツビーにとってのデイジーのように、評価の基準が定まっていない分、令和のギャッツビーはもっと厄介なのかもしれない。
■偽物
「君が手にするはずだった黄金について」に続いて、虚構に生きる者の話。剽窃により、虚構を創作する姿すら虚構であるという、フラクタルな虚構の中に生きる漫画家に、最後に<僕>が放つ言葉に苦さを感じる。
■受賞エッセイ
締め切りを過ぎての短編執筆中に次々と降りかかってくる災難。氷、カードの不正利用、カリブ海、謎の電話、自分とは何者か――それらの断片が繋ぎ合わされ、小説として結実する瞬間を作者とともに体感できるような掌編。
最後に一言。
サイン本欲しいです。欲しいです。
よろしくお願いします。
小説家の僕。
その日常の折々に現れる、思考の斜め上さがおもしろい。
自分の発言をパクられたことより、自分の発言の恥ずかしさに気づいたり、
電話口の何気ない問いかけに、自分は何者であるかと哲学的思考に陥ったり…。
他のエピソードも、もっと読みたくなりました。
読みすすめながら何度も、ん?この主人公“小川”は著者自身じゃないのか?フィクション?限りなくノンフィクション?と煙に巻かれたような気分になりました。
ん?ん?ん?と困惑気味でも先が気になって読むのをやめらんない。その中で一番共感したのは表題作でもある『君が手にするはずだった黄金について』。中毒性あり、な無限の可能性をどわーっと奮発して放出しているような作品でした。
これは小川哲さんについての、、、小説!?
エッセイではなくて?
小説としているのはもしかしたら、クリプキが唱えたという、どれだけ記述を重ねても本人にはならないのだという意味が‥?
初めて読んだときは、小川哲さんご本人のエッセイとしか思えず、すっかり小川さんを好きになってしまって、どこまでが現実なのか気になって仕方ありませんでした。
でも、今もう一度読んでみると、例えばババさんに5000円の思い出を披露した場面、この本はあんなふうに書かれたのだろうかとも思い始め、どこからが創作なのかはどんどんどうでもよくなって、むしろ書かれたエピソードや人物たちのセリフによって湧いてくる不可思議さや理解できなさ、書かれた文章そのものが、小川さんを、この本を、好きだと思った要素であると気付きました。
ああ、これこそが小説を読むおもしろさだ!
私小説?フィクション?はじめましての作家さんで混乱しました。
誰かから「小説家」と紹介されたりすると、どこか居心地の悪い気分になることがあった。
…と書かれていますが、マインドも生活も、もちろんこの本も小説家しか書けないものです。
承認欲求強めの超個性的な知り合いが3人も登場するのですが、その分析が面白いんです。主人公の小川哲は彼らのことを熱く語っているのか、それとも5歩位離れたところから観察しているのかわかりません。3人共にややこしく考えが浅くて、大の字で「つっこんでくれ!」と言わんがばかり。
本好きな上にこのような人たちに囲まれているから小説家になったのか。小説家だから気づいちゃうのか。小川ワールド覗けて楽しかったです。
この本、書店員さんがどのコーナーに並べるのか楽しみです。
主人公は小川さん自身か、少なくとも本人の実体験がかなり色濃く反映されていると思いながら読み進めました。東日本大震災の前日の記憶を手繰ろうとする「三月十日」を始め、言葉巧みに相手を信用させる占い師や偽物の高級時計を身につけるマンガ家など、胡散臭い人物が次々登場するが、主人公はその人たちを冷静に見極める。いろいろなタイプの人間ウォッチングを体験したような読了感じでした。面白かったです。
小川哲さん本人の話?と思わせるような短編集。
とらえどころのない感じもするがページをめくる手は次を求めてしまい…という感じで読み進めてしまいました。
エントリーシート書いてたのはもう30年も前の事だけどこの感じわかります。
小説家の鏡は占い師と呼ばれる人たちにある程度引き込まれてしまうのは仕方ないのか?と思ってしまう。
表題作の君が手にする〜は片桐の隆盛と没落が描かれておりでも片桐の本当の姿がどうであったかはわからないままでした。
小説家「小川哲」が様々な人と出会い考察することで、小説家として肉付けしていく模様を記した短編集。
当然著者の言葉で記されながらも、フィクションとノンフィクションの境が曖昧なまま読み進める一風妙な読書体験を味わえます。誰もがもつ承認欲求、表現欲求を小説家が解釈するとこうなるのかという見せつけられているようで、さらには自身すら気づいていないその欲求を暴き出されているで少し居心地の悪い感覚に陥ります。誰も制限されていないのに、なぜか少し躊躇いを感じてしまう(匿名SNSなどで昇華されている)欲求を代わりに代弁してくれたかのような作品。
過去を振り返る回数が増えてきた身(50代)としては、到達点を意識せざるを得ない「偽物」がおススメ。
読み終えてから、自分の中で感想をまとめるまで非常に時間が必要でした。
作者と同名で作家の主人公「小川哲」という時点で「?」でしたよ。
読めばエッセイではないし、私小説という訳でもない。あくまで作者が自身をモデルとした自伝的フィクションとでもいえばいいのか…ただ現実の事件も巧みに絡ませているので、決して全てが創作というわけでもないという気がします。
もう作者の手の上でコロッコロと転がされまくってる気分でしたが、何だか脳は心地よい疲労感がありました。
主人公・小川哲がエントリーシートの記入に悩んでいる。
ファンにしてみればそんな冗談やめてくれ!状態です。
しかしよくよく読み進めてみれば、普通の就活生の後ろ向きでナイーブな手の止まり方とは異なるようでした。
そんな暗いマイナス思考ではなく、素敵なユーモアに満ちている主人公。
小説を読みながら彼のばか真面目さに包まれるのはひじょうに心地が良い時間でした。
2つ目の短編と3つ目の短編の反響が興味深いなと思いました。
読者の想像力を大いにかきたてるものとなっています。
前章に登場した主人公・小川哲の元カノのように合致し、かつ同時にすれ違っている女性「華」さんを改めて主人公にしたのが『小説家の鏡』という3つ目の短編です。
そうした主人公「華」を生んだ作家の小川哲さん(もしくは主人公の小川哲の言葉かもしれませんが)の台詞には以下のようなものあります。
「作家は、むしろなんの才能もない人間のために存在する職業だ」と。
わたしは小川哲さんの小説に惚れ込んでいるので、小川哲さんのことを「なんの才能もない人間」だとは全く思いません。
しかしこの小説集『君が手にするはずだった黄金について』を読んだときに、小説と読者と作家の関係性について自分の中でひじょうにクリアになった部分がありました。
それは日本のエンタメ小説を中心によくある読者のこころをあたためてくれる小説や和ませてくれる小説というものは、「日本の社会から離れて作家という職をしている者たちが描くからこそ現れる世界観」なのではないかと感じたのです。
もしほんとうになんの才能もないとしたら、満員電車に揺られることや就活をすること、他者と囲まれて生きていくことに負担を感じるものたちが作家を名乗っているのかもしれません。
そうした現代社会の風化した痛みのようなものを、よりピュアに捉えている作家という人たち。
そんな彼らが一歩引いた目線から、風化した近代社会の痛みを書き表し、さらにそこから人々を救済するように癒しやあたたかさを小説に差し込んでくれているのではないかとわたしは受け取りました。
エントリーシートに書かされるグラフ。
己の記憶。
鏡に映る自分と反射。
まるで精神科医とのカウンセリングのように己を見つめる時間がこの小説集『君が手にするはずだった黄金について』にはたくさん登場します。
自身を注意深く自分を見つめることで、自分のことをまた1つ深く知っていく主人公。
さらに、この小説の中に主に登場する2つの職業である「小説家」と「占い師」は、ともに他者を映し出す鏡となる職業だなと思いました。
読者がいることによって小説が深みを増し、その人のものになる。
お客さんがいることにより他者の目線を踏まえながら、その人のことをより深く見つめさせる。
読者やお客さんにとって自分に偏移してくるような印象さえ与える「鏡のような職業たち」は、自分のことをまた1つ深く知っていく主人公の日々にとても色濃く影を落としているような気がしました。
小川哲さんの自伝的小説とも捉えることができる『君が手にするはずだった黄金について』。
そこには、100パーセントの純度ではないにしてもある程度の作家・小川哲さんご本人が主人公・小川哲に反映されているのではないかと思います。
この作家と主人公の関係性がそもそも鏡のように反響している小説『君が手にするはずだった黄金について』は、さまざまな鏡を連想させるモチーフを用いて読者に
「読者自身」が、
「小説という本体」が、さらに
「作家という生き物」が、
どのように映るのかを問うているのではないかと感じました。
わたしは『君が手にするはずだった黄金について』を読んだものすべてが、自分や世の中の解像度を高めることができるのではないかと信じています。
『君のクイズ』を読みましたが
こちらはまた少し違うテイスト。
自伝的小説なのかフィクションなのか。
細かいことが気になる男の話…?
と思いつつ読み始めましたが
どんどん面白くなって一気に読み進めました。
男友達とのやり取りが楽しい。
卒業してから違う道を歩みながらも
その職業や経験ゆえの見方や考え方が
なるほどなあと感じさせられ
彼らが持ち込んでくる話には微苦笑。
学生時代からの友達というのは
得難い宝だと思いました。
片桐やババにはその後の話という
オチもあってそこはスッキリ。
エッセイなのか物語なのか
最後まで煙に巻くような一冊でした。
面白かった!
『小川哲の思慮深さがにじみ出る自伝小説』
著者の大学院生から小説家として生計を立てている現在までの半生を振り返り、自分は何者なのかを問うた一冊。エッセイに近いが、「小川哲」という人物を描いた自伝小説でありフィクションなのだろう。なぜなら小説家の紡ぐ言葉は基本的にはフィクションであり、創造と嘘の境界線が不明瞭だと作中で何度も自問自答しているからだ。意識を自分の内側に向けた新感覚の作品である。
登場人物は同級生の片桐、漫画家のババ、怪しい占い師といったキャラの濃い人たちばかり。その中にいて小川哲の立ち位置は異質である。どうしようもない登場人物たちにイラッとする人も多いと思うが、小川さんはなんでも受け入れてしまう。スマートなのに気取った感じもしないし、とても謙虚に映る。そんな小川さんの人柄が垣間見える。
物語は淡々と進んでいくが、時折ユーモアも交えながら非常に読みやすいことも特徴だ。理由はよくわからないが、「文体が好き」という表現が当てはまる。読み戻りがまったく発生せず、頭に文字がするっと入ってくるのは特筆すべきことだと思う。
タイトルの「君が手にするはずだった黄金について」の"君"とは、まさに小川哲のことであると解釈した。資格も入社試験もない小説家という仕事。たしかに自分で名乗ることでしか表現できない特殊な職業だ。何かが欠如していたことで小説家となったが、小説家以外の道に進んでいたときに小川哲は一体どんな黄金を手にしていたのか。これからも小説家とは何か、自分は何者かと問いながら書き続けるのだろう。
この作品はあの「地図と拳」を書いた小川哲だと言われれば同じ作家だと思わないし、「君のクイズ」を書いた小川哲だと言われれば思慮深い点ではそうかもしれないと思う。「嘘と正典」だと言われるとやはり信じられない。でもひとつ確かなことが言えるのは、私はこの本が好きだ。
まるで私小説の如き体裁で、読み手を眩ます小川哲。作者小川哲であり、作者により象られた小川哲である。読み手の混乱を予想したジャブをかまし、煽る。
小説家の立ち位置。創造。虚構。真実。偽物。これらの狭間にいったい何があるというのか。おかしな精神構造と行動を誇示するかのような人物と関わるたびに自問し、自分とは何かを考え直す。
文体はできるだけ熱を排した印象で、淡々と起きること、感じることを描いていく。
自己分析を終始しているのだ。何者かになる必要はないのではないか。わたしはいつでも小説にはまんまと騙されたい。
20世紀末から21世紀のスタートを東京の大学生としてすごした自分にとって、この小説に登場するアイコンはその物体以上の意味を持つアイコンとして迫ってくる。「SHIBUYA TUTAYA」が今よりももっと輝きを放っていた時代の懐かしさを感じながらその世界に引き込まれていく。
脚色され、尾ひれをつけられたいくつかのエピソードトークのなかにひとつのテーマを盛り込む。緻密な構成で一気に読み進められた。
これは私小説なのだろうか、それとも…。頭の中が少し、いやかなり混乱しながらも、最初のうちは事実なのか虚構なのか考えながら読んでいました。でも、いつのまにか、彼の出会う不思議な人々や彼の経験する不思議な出来事に振り回され、小川さんが作り出したさまざまなものが混じりあう謎めいた世界にすっかりはまっていました。考えれば考えるほどわからなくなるのに面白い。滅多に得ることのできないとても貴重な読書の時間を体験できました。
フィクションなのか?ノンフィクションなのか?日常を描きつつも、本当に?と疑うようなことばかりな事だらけ。
かといって、完全なフィクションとも言いがたいリアルさがあり、新たなジャンルともいえる作品です。
身近な出来事を織り交ぜながら、主人公がいかに大学院卒業から小説家になっていったか、嘘と真の境界線など、友人との違いで何が大切かなど想いをはせる小説でした。読み終えて、また戻って読むとより考えさせられました。
非常に面白かったです
承認欲求がある人を観察する、一つ一つの作品がフィクションとは思えないリアルさがあり、とても興味深いものがありました
そして
作家とは、こんな風にして出来上がって行くのかみたいなものも感じました
何なれば何を得ることが出来るのか、この先の人生を考えさせられました
この作家についてほとんど何も知らずに読んだことが自分にとってはかえって良かったかもしれない。この後、作品に触れたりインタビューを読んだりしてからもう一度本作を読むことで、かなり違った楽しみ方ができるはずだから。
1編目の「プロローグ」は新潮社のエントリーシートのとある設問の答えがどうしても書けなくて悩む大学院生の僕•小川の話。淡々とした語りだからこそ心揺さぶられる。余韻も素晴らしく、短編単体として目を見はる出来映え。この時点でもう著者の虜になっていた。
2編目の「三月十日」は、あの震災の前日に自分が何をしていたのか、様々な手がかりを元に思い出そうとする話。ミステリ的趣向があって大変おもしろく、美しいラストにはまたもやハッと驚かされた。
3編目「小説家の鏡」や4編目の表題作、5編目の「偽物」では主人公•小川が出会った嘘つきたちが登場するが、彼らとの関わりや対決を経て彼が自分自身をじっと見つめ、小説家という職業に対して苦悩する展開になっており、大変興味深かった。彼らの嘘と、小説家が紡ぐ虚構の差は、どこにあるのだろう。自分もまた彼らなのではないかと、作中人物の小川だけでなく読者である私たちにも悩ませるような、かなり迫力のある話が3編続き、夢中になった。全編を通して、キャラクターの些細な描写からそのひと自身が色濃く香ってくるのがたまらなく巧みだ。
最後の「受賞エッセイ」に至ってはノンフィクションにしか感じられず、著者の創作の源泉に触れられた気がしてうれしくなった。もちろんこれも完全なフィクションなのではないかとは思うのだけれど、それでももしかしたら著者自身の言葉なのかも、とも思わされ、改めてこの短編集のたくらみのおもしろさに魅了された。著者の他の作品もどんどん読んでいきたい。
著者の実体験かと錯覚してしまうリアルさで描かれる、エントリーシートと小さい頃から縁があった彼女との結末、思い出そうとする東日本大震災の前日の記憶。そして友人の妻が入れ込む青山の占い師や、大金を動かす金融トレーダーとなっていた高校時代の友人、偽ロレックスを巻く漫画家との出会い。根本のところでは揺らがないけれど、いろいろな人との遭遇で波紋を投げかけられ、様々な思いを抱きながら、そのひとつひとつを冷静に考察しようとしていく彼のありように作家としての性を感じてとても興味深かったです。
小説家として生きる著者が、オーラリーディング占い師や、いかにも偽物感・小物感のある友人「ババ」など、特徴ある他者、踏み込んで言えば嫌悪を覚えずにはいられない他者を鏡として、図らずも自己認識を更新してしまう物語。
表面的な他者と自己の差異は確かに分かりやすく、好き嫌いなどの感情的な反応はそこに基づくことが多いが、根底では、学術的に言えば集合的無意識のような部分では、まるで自分と異なる他者の中にも、自分との共通項が幸か不幸か存在してしまう。
その事実に気がついた時、人ははじめて謙虚になれるのではないか。
主人公が作者の小川哲さんと同名なので、これはどこまでがフィクションなのかとドキドキしながら一気に読み進めた。
作中に出てくる人物が、あまりにもくっきりした輪郭を持っていて、いかにも実際にいそう。これ全て作者の体験談なんじゃない?ここまで詳らかに書いて大丈夫?と思わされてしまったのが、前述のドキドキに繋がったのだと思う。
小説家という仕事をこなしながら、様々な人との交流を経て細かく揺らぐ主人公の心情が非常にリアルで、自分とは違う誰かの人生を追体験しているような気持ちになれた。特に、偽物のロレックスを身につける漫画家のエピソードが強烈。漫画家の「いい感じに嫌な奴」な人物像はもちろん、彼に対する主人公の好悪入り混じる感情は、読んでいてヒリヒリした。
小川哲さんの作品は初めて読んだが、本作は直木賞受賞の実力者の受賞後第1作に相応しいと思う。エッセイ風かつエンタメ風な純文学という具合の、分類の難しい新しい作品だった。
自己の存在についてこんなにまだで考えながら書くものなのだ、作家というのは。と思いながら読み進む。
しかしながらどこか自分に似通っている部分もあることに気づく。
さてこの連作短編集のなかで、詐欺師になってしまう友人、三月十日に何をしていたか、そして占い師との対決、漫画家ババ氏について、まるで自分に起きたことかのように他人に語れるほど深く読み込んでしまった。何かその、この世界に入り込ませてしまう魅力が小川氏の文章にあるようだ。
これは大変な作家さんに出会ってしまったものだ。
小説家『小川哲』が主人公の連作短編集。読んだ感じだと小説なのか私小説なのかわからない。
ご本人がラジオで私小説に小説の奥行きを出したもの、というようようなことを言っていたような…。その時はこの本を読むとは思わずちゃんと聞いてなかったです。ごめんなさい。
でもそんなことは気にならないほど興味深く一気読みでした。
小川哲さんの独自の視点で語られる承認欲求と嘘。
どっちどっちと悩ませるのが狙いならまんまとひっかかってしまいました。
人は皆「誰か」になりたくて生きているのかもしれないと今作を読んで思いました。
その誰かが自分の理想とする新しい自分なのか、憧れのあの人、なのかは人によるかもしれませんが…主人公はきっと人が憧れる「自分にない部分」が、その人の特性につながると感じていたのかなと。小説家の方々が紡ぐ物語の側面を感じる場面もありました。何度も読んで、言葉の解釈を楽しみたい一冊です。
あたかもエッセイのような連作小説。主人公が出会う奇異な人々を「じぶんごと」として捉えると違った景色がみえてきます。序盤は自分と向き合う静かな入りから、いい意味で裏切られていきました。日常のふとした出来事で(ふいな問いかけとか)で、急に内なる世界へ引っぱられる感じがいろいろと考えさせられます。
これは私小説なのか?創作なのか?と思った時点で、この作品の魅力に取り憑かれていることに後で気づく。
就活のエントリーシートで躓いた僕(小川)は、考えたあげく小説を書き始める。
彼の日常の中で、偽物、偽者との絡みが俯瞰的に飄々として描かれていて、とても興味深かった。
誰でも心の中に隠し持つ承認欲求…僕の友人や漫画家を笑うことはできるのか?
苦笑いをしながらも、チクチクと胸に刺さる痛みを感じた。
小川哲先生、未読の方はこの本から入ることをオススメしたくなりました。
「僕の人生には、心の踊る物語なんてないんだ」
そう語る著者自身を主人公にした
現実と虚構の境目がおぼろげな小説。
さしずめ、
「この物語はフィクションですが、
実在の人物団体とも割と関係あります」
といったところでしょうか。
ふだんは熱量の低い主人公が
たまに熱くなる場面が超ヤバイですね。
特に、占い師と対峙する章の吸引力が凄かった!
初対面から軽蔑した相手との意外なつながりや
愚かさを絵にかいたような男の思わぬ顛末も
グイグイ引っ張り込んでくる感じ。
さらに、小説家小川哲が生まれるまでの
葛藤ってのも、またユニークだわ~。
内面描写が多めですが
へぇ~、こんなこと考える人がいるんだと
興味をそそられ、ページが進む進む。
一章の途中では少し停滞を感じましたが
そこから先に進むと、絶対面白いので
もし、どこかでアレレ?と感じても
読み進めたほうがおトクですよ?
(対象年齢は13歳以上かな?)
きっと全てフィクションなんだろうけど、読んでいると一体フィクションとノンフィクションがどれくらいの割合で含まれているのかと考え込んでしまう。しかも作中に出てくる「小川哲」が同一人物なのかも疑わしい。何ともややこしくて面白い作品だった。3/10のことは全く記憶にない。きっと私と同じものを見ても同じ見方や感じ方をしていないのだろうなぁ。
ちょっと世間とはズレた感じの青年が一人語りする、小川哲先生の半自伝的小説。
主人公の名前もそのまま”小川くん”ですし、直木賞のくだりがあったり、ホンマか!?と読んでいて思いました。
フィクションを描くには多少真実を混ぜるとお話が本当っぽくなる、お手本のような作品です。
けっこう気楽に読める感じなんですけど、それも読ませるテクニックが素晴らしいんだろーなー。
「ゲームの王国」「地図と拳」「君のクイズ」と作品の幅をどんどん広げる小川先生。
久しぶりに「ユートロニカのこちら側」みたいなSFも書いてほしい。
これからの活躍がとても楽しみです!
フィクションだということだけれど、どの作品にも小川先生では?と思わせるような主人公がいて、
「小説を書く人って、普段こんなことを考えているのかも」
と思わせるようなところが満載。
友人、知人、仕事関係の人など、実際にその辺を歩いていそうな周囲の人物たちも印象的で、互いに交わす会話も何やらとても面白かったです。
文章がとても読みやすいのでさらさら流れるように読めるのに、たびたび立ち止まって考えたくなるようなところも多く、始まったところから終わりまで、ずっと興味深く読める不思議な魅力を感じました。
読ませていただきありがとうございました。
作者の著作を読むのは初めて。
エンタメ作家という印象を持っていましたが、純文学にも通ずる味わいがありました。
どこまでが私小説で、どこからがフィクションなのか…
そう感じている時点で、すでに作者の術中にはまっているのでしょう。
自分が認識している自分と、他人が見る自分、さらには自分を投影した作中(作中作中?)人物。
自分が見る他人と、その人自身の自己認識。
そういった視点と〇イメージのずれを感じながら読み進めました。
個人的には、占師のエピソードが印象に残りました。
友人の奥さんはどうなったのかなあ。
小川先生の文章が好きだ。哲学的で、研ぎ澄まされた文章、とってもクールだ。
毎作品、テイストが異なる連作短編集だった。「プロローグ」に登場する女の子たちとのささやかな別れにしんみりし、「三月十日」なんでもない日の忘れられた記憶を巡って読んだ自分も我が身を振り返る。いんちき占い師とのやり取りは『君のクイズ』を読んだ時の感覚と似た興奮をもって読んだし、詐欺師や漫画家のエピソードでは破滅型人生の顛末を手に汗を握って読んだ。そしてあちらこちらに登場する作家の私、小川先生なの?と読んでしまってどきどきする。なんと豪華な短編集だろう。小川先生の全てがぎゅっと濃縮された一冊だ。
どこまでが本当でどこまでが嘘なのか、フィクションとノンフィクションの間にいるような気持ちで読みました。自分はどうだろうとか、すごく分かる!と共感したり、主人公の考えに触れる度に、自分も思わず考えてしまう作品でした。
フィクションとノンフィクションの狭間で、どちらとも分からない描き方が、読み手の好奇心を駆り立てるからか、「ノンフィクション作品」と紹介されるよりも、よりリアリティーを感じてしまうのが不思議。なんだこれ…とぞわぞわしてしまうような、そして読後には一人でにやついてしまうような、そんなおもしろい読書体験だった。
なかでも、作中のある1ページには唸った。「小説には、本物の世界では味わうことのできない奇跡が存在する。」「百パーセント言語によって構成された本という物体が、どうして言語を超えることがあるのだろうか-少なくとも、言語を超えたような錯覚を得ることができるのは、どうしてだろうか。」こんなにも小説の魅力を的確に表現することができるだろうか。"小説家が小説を書くということ"それさえも小説にする著者の小説に対する底なしの愛を感じた。素晴らしかった。
著者の小川さんのような「僕」が体験していく6つの話。
どこまで本当なのだろう?
特に「偽物」が面白かった。承認欲求に取り憑かれるとこんなふうになるのかも…。
タイトル作の「君が手にするはずだった黄金について」もよかった。
小説家を主人公にした話、たくさんありそうなのに少ない。とても興味深く読んだ。
「面倒くさい語り手だな」という第一印象。しかし、この面倒くささが心地よく癖になる一冊でした。
ほどほどに共感したり呆れたりと長年の友人と雑談をしているような読感に親しみをおぼえました。
思考実験や屁理屈が好きな読書家の方にオススメしようと思います。