わたしたちに翼はいらない
寺地 はるな
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刊行日 2023/08/18 | 掲載終了日 2024/04/24
ハッシュタグ:#わたしたちに翼はいらない #NetGalleyJP
内容紹介
他人を殺す。自分を殺す。
どちらにしても、その一歩を踏み出すのは、意外とたやすい。
同じ地方都市に生まれ育ち、現在もそこに暮らしている三人。
4歳の娘を育てるシングルマザー・朱音。
朱音と同じ保育園に娘を預ける専業主婦・莉子。
不動産関係会社勤務の独身・園田。
いじめ、モラハラ夫、母親の支配。心の傷は恨みとなり、やがて――。
それでも、「生きる」ために必要な、
救済と再生をもたらすサスペンス。
【著者略歴】寺地はるな(てらち・はるな)
1977年佐賀県生まれ。大阪府在住。2014年『ビオレタ』で第4回ポプラ社小説新人賞を受賞しデビュー。2020年『夜が暗いとはかぎらない』で第33回山本周五郎賞候補。2021年『水を縫う』で第42回吉川英治新人賞候補、同作で河合隼雄物語賞を受賞。『川のほとりに立つ者は』で2023年本屋大賞第9位。著書多数。
おすすめコメント
<担当編集者より>
人間のドス黒い部分を描く、「黒テラチ」の真骨頂!
想像を超えるほど進化しつづける寺地さんに
大いに驚いてください!
<担当編集者より>
人間のドス黒い部分を描く、「黒テラチ」の真骨頂!
想像を超えるほど進化しつづける寺地さんに
大いに驚いてください!
出版情報
発行形態 | ハードカバー |
ISBN | 9784103531920 |
本体価格 | ¥1,650 (JPY) |
ページ数 | 256 |
閲覧オプション
NetGalley会員レビュー
自分の置かれた状況を読む
かわいくて機嫌のいい子どもと短時間接すること
人間は他人の不幸にランキングをつけたがる
子ども相手と大人相手で言うことが違う人は信頼されない
自分が幸せになることが復讐
友だちじゃなくても、相手のために行動したり、相手を大切に思うことはできる
等々たくさん気になる言葉や共感できる言葉が出てきました。
最初と最後は子どもたちのシーンになっているので、重すぎすに読み終えることもできました。
あぁ、やられた…。やはりさすが寺地さん!どこまでも深く胸を抉ってくる。
鋭い指摘で隠していたものを暴かれるような、見て見ぬ振りをしていたことを目の前に突きつけられるような、全てがドーンと重みを持って迫ってくる衝撃…。
読み始めたらどんどん引き込まれ、一瞬たりとも目を離すことなどできなかった。
自分の心の闇や、傷ついていた本当の気持ちに気づいた時、そばに居て話を聞いてくれた人に依存することなく、その人を思い、離れてもその事実を胸に、自分の足で歩む道を照らしてくれる今作は、きっと多くの人の人生の1冊となると思う。圧巻!
人間の内面は恐ろしく利己的で、自己中心的なんじゃないかと、疑いたくなる。寺地さんの描く人物は、どこか仄暗く難解だ。
剥き出しの心が晒され、落ち着かない。いつだって足元がグラグラする。
読了後、わたしはいつのまにかカタルシスを感じていた。まだ人を、自分を信じて良いのだと安堵した。
興味深く読ませて頂きました。
実際に身近に感じるような内容でどこにでも似たような人間関係があっても不思議ではないなと
感じました。小学生の頃の考え方が大人になればどう変わるのか、変わらず同じなのか、自分は
どうなんだろうと考えさせられました。
また問題があったとしても考え方次第で何もなかったようにできるかもしれない事、でも結局は
その問題はなかったことにはならない事。
今の自分を考えてしまうそんな本でした。
地方都市に住み、社会人となり家庭を持った中学の同級生たちが再び出会い織りなす人間模様。何気ない日常生活の中にひそむ様々な感情がもつれあい膨らんでいくその先には、、、
誰しもが抱えているであろう苦い過去との清算を経て、それでも日常は続いていくことを実感させてくれる物語。
内容的には胸をえぐるような内面の話が続くので
ずっと息苦しい気持ちで読んでましたが、
ページをめくる手が止まりませんでした。
登場人物すべての気持ちにも感情移入できる面があり、
さすが寺地さんです。
読後感もよかったです。
ニュースを見ていると、今の日本の閉塞した状況に息苦しくなってくる。
企業は信じられないような不正な方法で顧客を裏切り、政治家は思いついたような答弁でその場しのぎに追われる。世界が日常を取り戻し再びグローバルでの行き来が復活しているのに、全く成長しない経済と行きすぎた円安のためにアジアにしか行けない日本人。
身近なところを見れば、給与は上がらないのに物価だけが加速度的に上がっていく末期的な経済状況。メキシコからアメリカに出稼ぎに来る農作業員の時給が2000円を超えているというのに、日本の最低時給は変わらず1000円近辺。当てにしていた外国人労働者も、飲食にも、コンビニにも、宿泊業にも従業員は集まらず、日本を避けて他の国の就業へと目的地を変えている。
そんな閉塞感を、身の回り5メートル半径で描いたのがこの作品だ。
地方都市では学生時代の人間関係のしがらみから逃れられない。上下関係も一生変わらない。家という閉塞空間もジトっとまとわりついて離れてくれない。
3人の女性の主人公たちは、それぞれに内に秘めた閉塞を変えている。どうしてこんな私になってしまったのか。逃れようとすればするほど、深い沼へと引きずり込まれていく。
こんなどうしようもない時代にこそ、どうしようもない日常の物語を読むことは大切。そんな気持ちになった。
寺地さんの作品を読むと、掬い上げられたあたたかさと何も見えてなかった苦さを混ぜ合わせたようなぐにゅぐにゅするスライムに身を投げだしたかのような気持ちになります。
自分が幸せになることが最高の復讐という考え方は責任の在処というか、根本を誤認してしまって、冷静になるとものすごく歪な状態だった事に気がつけて良かった。自分が幸せであることを、何故、他人のものさしを基準にして計らなければいけないのか。そこは繋げる必要のない点と点なのに振り回されていることに当事者は気づきにくいんですね。なんなら、前向きになったね、と自他共に認識してしまう。
自分がどう感じるかを優先し、自分を大切に出来るようになるまでが描かれていて、苦しくても負けずに歩みをとめない登場人物たちの姿がとても印象的でした。
始まりと終わりがちょうどひとつの道の上でつながっていて、縁ある人とのゆるやかに伸びた関わり方の多様性を感じました。
様々な登場人物の視点からそれぞれの生活や心理が描かれる。誰も思い通りに生きているわけではなく、諦めたり手離したり、周りにも自分にも嘘や思い込みで誤魔化したり。でもその全部に少しずつ「私もそうだな」と頷くことがあって、心が痛くなるようだった。
息苦しさの原因はそれぞれ。過去に苛まれる、過去に縋る、今が苦しい。それぞれがそれぞれの要因を手離し、少し息のし易い今を掴むことと子ども達が健やかに育っている姿がリンクして、和やかな気持ちになるラストでした。
読み進めるたびに重圧、息苦しく
動悸がして、とにかく苦しかった
登場人物それぞれに心の葛藤がある
心の中まで支配されてなく自由だ
自由であって闇深い
頑張ってたな…
踏ん張ってたな…
強くなったんだな
今回もすっごくよかった!
ママ友や学生時代のカースト、それがズルズル続く地元の感じ…。
もう現実話にあり得そうな人、話の連続で…
読んでて分かる分かる…ってなったり
苦しくなったり…。
そんな中でも生きていく術を見つける人たちに
共感を覚えたり、応援したくなったりと
なんとも複雑な、色んな感情が混じるお話でした🥺
現実に躓いたとき、過去を引きずる者と美化する者。自分の物差しで人をはかり、積み上げてきた優越感が崩れていく、小さな世界の崩壊と再建を描いた物語。
学校や職場での精神的イジメ、親や夫の支配。今では「モラハラ」と名がついてはいるものの、グレーな判断になる出来事を、加害者と被害者両方の観点から利己的に晒した、人の醜さが覗ける作品。どこまでが加害者で、どこからが被害者なのか。いつまで一方的な被害者でいられるのか。「他人の所為にする」という訳ではなく、単純に「何が、誰が」そういう人間を作り出したのか。それを良しとしてきた事は罪なのか?多角的に問題と向き合う大切さを教えられた。
漠然とした不安を煽る展開と、鼻につく勘違い人間の描き方に、「黒テラチ」が存分に窺えて面白かった。
今も昔もあるイジメやスクールカースト、いじめる側といじめられる側、見下す側と見下される側、読んでいて嫌な気分になりながらも読むのをやめられなかった。小説の中だけでなく、実際にもあるに違いない人間関係が書かれているからこそリアルに感じられた。どこにでもある人間社会の心の闇の部分をたっぷりと感じる読書タイムでした。
これはわたしの物語だと思った。
いや、違う。
よくよく考えてみたら、この中に出てくる人だれ一人として自分とは似ていない。
わたしは、朱音のようにきっぱりと物事を言うことができない。
莉子のように華やかな学生時代もない。
律のように教室の隅で息を殺していたこともないし、大樹のように俺様風をふかせていたこともない。
なのに、この人たちのことが自分のことのようにわかる、わかってしまう気がする。
なぜだろう・・と考えた。
そうか。寺地さんが、すくい上げるからだ、と思った。
一人の人間の中にあるたくさんの細かいビーズのような感情の粒を丁寧に一粒ずつすくい上げて、
大きくして差し出してくれるからだ。
だから、はっとするのだ。
人は一面ではない。
たくさんの面を持つとらえがたい生き物なのだと気づかせてくれる。
読み終えて、今回も自分の中の凝り固まっているだろう針がゆれ動くような気がした。
今回の作品は今までで1番直球だった。
「黒テラチ」とは上手いこと言ったなぁ。
誤魔化してきた心の奥底の闇が、苦しく逃げてきた本音が、それらが浮き彫りになった時どうなるのか。
いろんな立場の人物が出てくるなか、あーわかると思う自分がちょっと苦しい。
過去を振り返り見つめ直すことで、新しい自分になれる気がする。
というか、なりたい。
同じ保育園の保護者、中学校の同級生、登場人物が様々に関わっていく。
殺人、復讐と穏やかではないワードが出てきてドキッとする。
いじめ、モラハラとみんな苦しい。
でも関わったことで、変わっていく。
タイトルの「わたしたちに翼はいらない」「たち」であることに意味があるんだな。
学生時代のスクールカーストの上位にいた者、下位に据えられイジメを受けた者が、大人になっても同じ地方都市に暮らしている。主人公となる3人のそれぞれの立場から、物語は進行していく。イジメられた記憶を拭えない、離婚、モラハラ夫、ママ友との軋轢、などきつい展開だったが、最後は三者三様の納得できる救いが持たされたのではないかと思う。
わたしたちに翼はいらない/寺地はるな 新潮社
ー 心の暗い部分に向き合う3人の物語に、自身の内面にも向き合わずにはいられない -
過去のいじめで、表面上の付き合いだけして誰も信用しない、
負けん気だけで地元に残り続けるシングルマザーの佐々木朱音
可愛いバカを演じ続け、いじめ側だったヤンチャ男子にずっと寄り添い続け、
地元しか知らない、自分だけでは何もできない中原莉子
過去のいじめで、人が信用できないが一人で生きる強さが無い、
予期せぬ異動で一度は離れた地元に戻ってきた園田律
過去に縛られた3人が、あるきっかけで関わるようになる。
まったく生き方も思考も違うのに、なぜお互いが気になるのか・・・
過去の呪縛や、3人それぞれに押し寄せる辛い展開
ミステリー要素もあり、ハラハラしながら読みました。
そして、ラストの少し前を向いた解放感のある救いに胸を打たれました。
生々しく、どこにでもありそうなリアルな物語を読んでいる内に、
いつの間にか、自分の心の暗い部分にも向き合っていました。
実に、心に響く一冊でした。
素敵な物語をありがとうございます。
#フタバ図書 #読了 #NetGalleyJP
夫と別れる決断をして4歳の娘を育てるシングルマザー朱音。朱音と同じ保育園に娘を預ける専業主婦・莉子。転勤で故郷に戻ることになった園田。お互い何も知らなかった時には警戒していた相手が、話すうちに少しずつ印象を変えてゆく展開で、園田の視点もなかなか興味深かったですけど、やはりシングルマザーの覚悟を決めた朱音と、このままでいいのかと思い悩むようになってゆく莉子の友人ではないと言い切れるようになってゆく距離感の変化が印象的でした。
私もかつて女子であり現在母親なので朱音の気持ちも莉子も分かって苦しかった。一人一人別の人間、一人一人感じる痛みも違う。痛みを抱えて加害者も傍観者も許さない生き方、その方が辛いのでは?選ぶには強さが必要な気がする。最後友達じゃないと言い切れる二人の関係がいいな。
あの頃は良かったよね、と振り返る人もいれば、思い出したくもないあの頃を過ごした人もいる。過ぎ去ったあの頃に人はなぜ縛られてしまうのか。
シングルマザー、専業主婦、独身の無口な男の物語。3人の複雑な接点、絡みあうそれぞれの進む道が描かれていく。
彼らがが抱える傷は其々だけれど、友人、親、夫など身近な人からもたらされたもの。ん?と思う些細なすれ違いも、積もり積もって自分を押さえつける重しとなっていく。
辛かった過去を乗り越え幸せになるための翼だとしたら、そんな翼は必要ない。痛みや苦しみを無理に忘れる必要もない。人としての弱さや醜さも含め、自分は自分として生きていけばいいのだから…と認めてもらえた気がした。
私も気づかなかった心の奥底の思いと記憶を呼び起こされて悶絶したくなりました。
考えるな•なにも•考えるな
学生時代は
同調圧力をかけ合う友人関係、母親の思いという呪いをかけられ、異性に気に入られる術を手に入れる
結婚してからは
聞き分けの良い妻となり、罪の意識もなく思ったことを言う嫁ぎ先の親と付き合い、ママ友という友だちではない人とも付き合っていく
舞台は地方都市。登場人物たちは自分の子どもも同じ土地で育てています。夫はわかりやすい暴力こそないものの、忘れられないような言葉を妻の心にゆっくりと深く突き刺していきます。ここの文章、世の男性必読です!
学生時代に嫌がらせを受けていた園田という男性が、仕事で偶然出会った虐められていた同級生と出会い殺意を抱くことが中心となって物語は進んでいきます。
全てを読み終えた時にこの題名の意味が深く刺さります。寺地さん、人の内部を取り出して公衆の面前にさらけ出すような凄い作品生み出されたのですね。
ブレない自分をちゃんと持った性格の朱音は、寺地はるな先生の作品にはよく登場するタイプのように感じる。
対する莉子は、世界は自分中心に回っているという性格で、相反する二人の関係が、物語が進むに連れて交わり良い方向に進んでいく。さらに、園田との三角関係のようでそうじゃない、恋愛感情があるのかないのか、単純ではない3人の関係が複雑なのにスッと入ってきて、スラスラと一気読みできた。
一見すると莉子がすごく嫌な人間に見えるが、母親や夫との関係など同情できる要素もあり、それは生まれ育った環境が大きく影響していて、子どもの頃に聞かされた言葉や出来事は、大人になっても纏わり続ける怖さを知った。
それでも、新たに出会う人たちによって変わることができる、というのが伝わる物語だった。
さすが寺地さん。
心の奥底にある、触れられたくない、思い出したくないような気持ちや記憶を、的確につかみに来る話です。
完全なる善でも完全なる悪でもない、とても人間くさい人物ばかりだから、よけいにズシンと来るのかなと思います。人って割り切れないから。
朱音の生き方はとても羨ましい。簡単ではないだろうけど、自分の芯があってそこからブレない。他人と相容れなくても、自分の譲れない部分を守れるならそれは仕方ない、と割り切って生きていけたら、自分に自信がもてるのではないかなと思う。
人の幸せってなんだろう。目に見えるものが全てではないのだということを、改めて考えさせられました。
朱音、莉子、園田…みんながどこかで繋がって生きている世界に、少しホッとしました。子どもたちの下校シーンで終わったラストは救いを感じてとても良かったです。
常に考えていたのは、スクールカーストの頂点にいたものと底辺にいたものとの価値観の違いです。
自分でもおかしいと思うほど影響されている昔の出来事。
私自身もかなり過去にとらわれる方なので、きっと他者には笑われているのだろうなと感じます。
そして自分が辛かったなら「そんなこと」と言うほど軽くもなんともないんだよ、と言う会話にはとてもじんときました。
子供の頃に恵まれすぎていびつな大人に育つというケースは、世の中にも多く溢れていると思います。
この小さな都市の中で、かつてスクールカーストの頂点とスクールカーストの底辺であったものが集結したら、どのような ドラマが巻き起こるのか。
初めて読む小説舞台背景にとてもひりひりしました。
重い。重苦しくて、なかなか進まない。ページをくる手の遅さとこの人物たちにとっての時間もこのように重くて長いものだったのだろう。青春時代といえば聞こえはいいものの、それだけでは語れないものがある。こちらは苦しかった。
人と人との関係は難しい。そもそも自分との関係が難しい。自分との関わり。これがなかなか厄介だ。理想の自分と現実の自分にはギャップがあり、人から見た自分と自分で考える自分も違う。さらに厄介なことに、見る人によって違うのだ。この物語の中心となる3人はそれぞれ違う痛みを抱え、分かり合えないまま関係を紡いでいく。理解できなくとも、必要とされれば手を差し伸べる。こういう関係の紡ぎ方があるのかとハッとした。「友だち」とくくらなくても、弱いところを見せたり、助けを求めたり、言いにくいことを言える関係は風通しが良さそうだ。後半は何だか心地良くて、もう少しこの物語に浸っていたくなった。私は私のままでいい。そして、理解できないあの人と分かり合えなくてもいい。とても軽やかな気持ちになった。
社会生活において、「枠」にハマるというか、こうあるべきみたいなものを多くの人はいつの間にか持っている、身につけてしまっているのかもしれない。
いい意味でその「枠」を壊してくれるというか、そんなものに囚われなくていいと言われてる気がしてなんか晴々とした読後感だった。
寺地先生の作品は優しいものが多い印象でしたが、今作はつらい空気が全体に漂っていて「あれっ?」と思いました。「昔のこと」は今にもつながっていて、つらい思いをさせた側は忘れ、させられた側はずっと覚えている。でも、事件が起きなくてよかった。最後の「友達じゃないよ」は素敵だな、とおもいました。
寺地先生の作品には何度も心を打たれ、考えさせられています。今回は言語化が難しい、10代の人間関係の機微についてが表現されていると思いました。10代のころに人間関係に悩み、それをなかったことにしたいけどできていない大人、こういう人は多いと思います。この作品でスカッとしたかといわれるとわかりませんが、登場人物たちが人生について悩み、そして一歩踏み出した瞬間をそばで見させてもらえてよかったと思います。すべてが一緒な人生はありませんが、登場人物たちの人生に重なる部分がある人は多いのではないでしょうか。そういう人にこの人はこういう道を進んだのだと一つの例を示してもらえるような作品でした。個人的に印象に残っているのは「友達」についてです。「友達」とラベルを貼らなくても本音を話せる存在がいてもいいんじゃないか、というのは考えさせられました。
今もママ友として付き合う莉子と美南は、中学時代クラスの王様だった大樹の取り巻きだった。
今では夫である大樹の傲慢さに嫌気かさしている莉子。
一方、当時大樹等からイジメられていた律は、莉子と大樹にそれぞれ別のタイミングで再会し、心乱れる。地方都市に育った30代は中学時代のヒエラルキーから抜け出すことができるのか?
シングルマザーの朱音も絡んで物語は展開する。
寺地さんは心の奥底のネガティブな部分をこれでもかとえぐり出すのが最高に上手い。黒テラチの筆力は、閉鎖的な地方都市に住み着かざるを得ない3名の男女の人生を炙り出し、膿を出し切ったラストは清々しかった。穿った見方かもしれなが、子供っぽい莉子も、その土地に縛られると本能で分かっていたから武装していたのかもしれない。
シングルマザーの朱音、モラハラ夫を持つ専業主婦莉子、いじめを受けた過去に縛られる独身男性の園田。彼らは狭い地方都市で様々な縛りと見えない圧にもがきつつ生きている。偶然の出会いが彼らの接点を生み、共感と反発とわずかな救いを求めて交錯する。寺地さんは人の心の黒い部分を引きずり出し、気づかせ、光を当てようとする。娘に「私達、親友だよね~」と腕を組んでくる子には気をつけなと言ってたな。友達じゃなくても相手のことを思いやれるし、友達だったのに裏切られることもある。今更ながら「友達って?」と考えさせられた。
誰しも一度は殺したい衝動に駆られるものだろうかと考えながら読み進めた。
莉子は過去の言動に囚われがちで心配だったが、最後に目が覚めて自分の道を歩み出せて良かったと思う。
大樹のような一軍男子の考えなしでする発言の強さが苦手で読みながらイライラしてしまった。莉子をバカにせず思い出すタイミングがあれば良いのにと勝手ながら思った。
最後の朱音と莉子の関係性が良くて少し眩しかった。
心を抉られるような描写が多いが、ラストは爽快だった。
「友だちじゃない(でも、困っていたら手を差し出して助け合うよ)」
と言い切るシーンが印象的。
大樹はダメですね。女性にもいます、こういう思考回路の人。
「いじめはダメ」なのになくならない。もどかしいです。
人の誰しも少しは持ってるであろう、嫌な部分や思い出したくないような過去。
そして時を経てまた同じように繰り返す。
美化されることなくリアルにその感情が伝わり、物語は進んでいく。
読みやすくすんなり心に入っていく作品。
シングルマザーの朱音、モラハラ夫と暮らす莉子、中学時代のいじめられた経験に囚われている園田。
三人の闇の部分が引き合い、運命が重なっていく。
それぞれが傷をもっていて、それがひっそりと膿んでいる。
チャチャッと膿を出しきっちゃって、怪我したことなんか忘れられるといいのに。怪我しないようなところに逃げ出せばいいのに。
読者の心に棘を深々と刺すような物語。
終始 閉塞感とピリピリした空気が漂い、重苦しい気持ちになるのに読む手が止まらず一気読みしました。
サスペンスって感じではなかったけど、いつものほんのりスパイシーな寺地さんよりヘビー寄り。
メインとなる登場人物3人と私には これ!という共通点は見当たらなかったし、ピタッと共感できたわけでもないけれど、強いて言うなら莉子の処世術は身に覚えがあり…傷つかないために、なかったことにして、もしくは自分が望んだことにして、知らず知らず自分を損なっていく。
きっと身に覚えのある人多いのではないでしょうか。
今作も寺地さんは抉るなぁ
それにしても大人になってもスクールカースト上位の頃のノリを引きずり、幼稚でプライドばかり高い大樹(莉子のモラハラ夫)には怒りを通り越して呆れしかない。
成長する機会を逸したと思えば可哀想な気もするけれど。
最後は希望が見える終わり方でホッとしました
莉子と園田と朱音。それぞれの視点で語りは進む。
決して母としては成熟していない莉子。けれど、妻としての彼女は傷つけられている。自分を見下す夫から。
死にたいけれど死ぬほど勇気はなくて、死ぬ理由を探している園田。殺したいほど憎い相手がいる。過去を持ち出してマウントをとる同級生が憎い。
シングルマザーの朱音は、娘がいじめにあっていると知る。自分も過去にいじめを受けてきた。
人とは違うことを恐れ、人とは異なる者を蔑む。自分の強い立場を振りかざして弱い相手を虐げる。誰もが迷い間違えるのだから、美しく羽ばたくことが正義ではない。登場人物たちの誰かは私かも、と共感する読者にタイトルはそう告げている。