棕櫚を燃やす

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刊行日 2023/03/16 | 掲載終了日 2023/05/31

ハッシュタグ:#棕櫚を燃やす #NetGalleyJP


内容紹介

第36回三島由紀夫賞候補作!
第38回太宰治賞受賞作!

荒川洋治氏「聖なる家族と呼ぶべき一家の物語」

父のからだに、なにかが棲んでいる――。
姉妹と父に残された時間は一年。その日々は静かで温かく、そして危うい。
喪失へ向かう家族を描く受賞作と、書き下ろし「らくだの掌」を収録。


 なにかが父に巣くって、父の体をゆっくりと壊してゆく――。34歳の春野と、5歳年下の妹・澄香と父は、三人で暮らしている。「水越しにぼやけた地上をみる」ように他人と距離をとって生きる春野と、何事にも納得したい澄香、すべてをさもありなんと受け入れる父は、唯一の心地よい関係を育ててきた。その父の体内に何かが棲み、余命一年であるという。春野と澄香は毎日をあまさず暮らそうと約束する。

 父と浴びる春の陽射し、玄関に脱ぎ捨てられた父の靴下、明け方の高速道路のドライブ、三人で囲むすき焼き鍋……。穏やかな日々の一方で、膨張し姿形を変え、「ごめんね」が増えていく父を春野は疎ましくも感じ、むるむるとしたものが体をめぐる。あまさず暮らすとはどういうことだろうか。

 過ぎていく日の愛おしさ、どうしようもなく変わってしまう関係とその戸惑い。喪失へと向かう日々を、繊細に美しく描き出す。

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【著者プロフィール】

野々井透(ののい・とう)
1979年、東京都生まれ。

第36回三島由紀夫賞候補作!
第38回太宰治賞受賞作!

荒川洋治氏「聖なる家族と呼ぶべき一家の物語」

父のからだに、なにかが棲んでいる――。
姉妹と父に残された時間は一年。その日々は静かで温かく、そして危うい。
喪失へ向かう家族を描く受賞作と、書き下ろし「らくだの掌」を収録。


 なにかが父に巣くって、父の体をゆっくりと壊してゆく――。34歳の春野と、5歳年下の妹・澄香と父は、三人で暮らしている。「水越しに...


出版情報

発行形態 ハードカバー
ISBN 9784480805119
本体価格 ¥1,400 (JPY)
ページ数 160

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NetGalley会員レビュー

父と子、娘ふたりの三位一体ともいえる関係は父の余命がいちねんであることから少しずつ変容してゆく。

しろい手としての記憶しかない不在の母。
周りはわたしたちをかわいそうな家と思っているがわたしたち自身は全然そんなことはなかった。

物語が終わるとき、父の口癖『上出来じゃない』といいたくなるような素晴らしい作品である。

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表題の棕櫚を燃やすは、癌を患った父親と、姉妹が共に暮らしながら、かけがえのない家族3人の日々を大切にしながら生きている様を淡々と描いている。作者独特の擬音というのか造語と言うべきものが、何度も出てくる。分かるようでいて、それでも正確にはやっぱり分からない感じ、ありきたりの表現では語れない心の動きみたいなものなのか。来年の今頃はもう、父とのこの暮らしはないであろうという姉妹の哀しみと、やるせ無さが、今は亡き母と会話しているような父の声を聞いて、声をかけるのをやめる箇所にもよく現れていた。
もう一つの書き下ろしの短編、らくだの掌も、やはり心揺さぶられるものだった。人はずっと同じではいられない。そういうはかない存在であること。生きる悲しみと、ある種の滑稽さみたいなものを持ち合わせながらも、淡々と生きていく。並木さんと、なかちゃん。ずっと職場のいい仲間として、いて欲しかったかな。

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第38回太宰治賞受賞作「棕櫚を燃やす」と書き下ろしの「らくだの掌」の二篇。

「棕櫚を燃やす」
父親の内側でなにかが蠢いているのを知った春から始まる。父の余命が一年と知り姉妹は「あまさず」暮らそうと約束する。
父と姉妹の三人の関係は、まるで「土鍋」のよう。いいひびを作りながら割れない。三人の関係性も、距離感も、それぞれの感情も表現される言葉の語感がとても美しくて、心のなかで反芻した。なんて素敵な作品に出会えたのだろう。「むるむる」した感情も含めて、私はこの作品を心に張り付けて永遠にしたい。

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何かに侵された父が亡くなるまで姉妹との3人の記録と行政の仕事に携わる中林さんの2篇を収録。
表現が美しいし作者さん独特なオノマトペは面白い。
ページ数は少ないけれど一言一句取りこぼさないように大事に読んだので
少しだけ時間がかかった。
教えたいけど教えたくない、秘密にしたい。そんな本でした。

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父が病をえて徐々に弱っていく。
父の体に何かが巣食い、徐々に父の体をむしばんでいく。
感情を排除した描写で、淡々とした父の姿を描き出す。
他者との距離の取り方が難しい春野にとって、唯一心地よい関係を築けてきた父がもうすぐいなくなる。
流れていく時間、過ぎていく季節、喪失に戸惑う日々が端正に描かれる。

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初読みの作家さんでした。表現や言葉が独特だなと思いながら、表題の「棕櫚を燃やす」はなかなかページが進まず、気を抜くと「ん⁈」どういう事?なにが言いたいんだろ⁈と戻って読み直してみたりしました。でも、「らくだの掌」を読み始めたら、独特の表現が癖になり、噛み締めながら読みました。「対岸は太陽と光合成」という表現のところが何故か凄く好きです。時々読み返して何度も読みたい本でした。

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父のからだの変容、病にかかったことを、全編に渡り美しい文体を用い、比喩的に描写する。静謐な空気感、美しいたたずまい。終焉を迎えつつある父と娘たち三人だけの、家族の姿を描いている。もうひとつの短篇「らくだの掌」も表題作同様、病や死を生に連なるものとして淡々と静かに描いているのが味わい深い。作品に登場するお料理がとても美味しそう。生きることは食べることなんだとしみじみ感じる。

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第38回太宰治賞(2022年)受賞作で著者の野々井透(とう)さんは女性です。幼い頃にある事情により母を亡くし父と3人で暮らす春野(39歳)と五つ下の澄香の姉妹に突然、父が余命一年だと告げられ二人は相談して限られた時間を全うしようと話し合う。姉妹は男性との間に子孫を残す事を望まない主義であったので縁談は流れるが父はそれについて少しも責めたりしない。純文学という感じで文章が美しいです。ヒロインの姉・春野は時に胸がむるむるするという独特な表現の感情に駆られますが大きな激情には流されず淡々と日々は過ぎていきます。著者は死をテーマに扱いながらも決して重々しくはなく悲しみや切なさを感じさせません。本作は生真面目一本鎗でユーモアもありませんが生きる事に希望と勇気をもらえる内容だと思います。書き下ろし短編の「らくだの掌」も死をテーマにした作品ですが、こちらは砕けたユーモアが感じられて結末は少し寂しいのですが私は好きで、やはり読後に人生頑張らなきゃという気持ちが湧いてきますので今後の著者の作品に期待が持てると思いますね。

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「棕櫚を燃やす」
癌を患った父と娘たちの、静かに丁寧に「あまさず暮らす」日々を綴った中編。
家族で囲む食卓にのる料理が素朴で美味しそうで、だからこそだんだんに弱って食べられなくなっていく父の姿が哀しい。それでも姉妹は、春になったら庭の棕櫚を燃やすのだ。

「らくだの掌」
並木さんが放浪の旅に出ていなくなった。
役所で街に暮らす年配の人々を見守る部署で働く主人公。簡単に、ろうそくの灯が消えるように、ひっそりと命をおとしていく老人たち。
そしてまた同僚の並木さんも。

どちらの作品も、胸に淋しく沁みいってくる。

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最愛の父親に残された時間は一年。姉妹は父親との時間を全うしようと話し合う。仕事や家事、父親の病院とお世話。そして父親を失う悲しみと怖れでがんじがらめになりそうだが、文章からは静かさが伝わってくる。私自身の両親も高齢となり、他人事ではない物語をこの時に読めて良かった。実際に直面したらどうなるか分からないが、残された時間を精一杯、大切に過ごしていきたいと思う。

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父と娘ふたりの当たり前だった日常にふいに影が差す。
むるむるする。
オノマトペがなんとも印象的。
もう、むるむるは
むるむるしか表現しようがない。

あまさず暮らすとはどういうことなのか。
ひとつたりとも取り零したくない。
触れると崩れてしまいそうな時間が
大切だけど、どうしようもなくもどかしい。
繊細な文章に心を奪われ、何度も何度も読んでしまった。
数日経ってまた読むことを繰り返した。

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冒頭から心掴まれました。とにかく、表現が美しくて素晴らしい。表題作の「棕櫚を燃やす」二篇目の「らくだの掌」どちらも心が暖かくなり、同時にどうしようもない淋しさに襲われて、泣いてしまいました。
素晴らしい作品に出会えて、とても嬉しいです。ありがとうございました!

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ものすごくたのしく読みました。とても面白かったと思います。
1つ目の作品はこれでもかというほど食の描写が多く鮮やかです。
2つ目の作品は、今度は内面にひじょうにクローズアップしており静かな起伏を感じました。

ひとつひとつ視界が開けるように与えられる情報。
過剰でもなく、でも静かで、エキサイトしながら読み進めました。

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