臆病な都市
砂川文次
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刊行日 2020/07/28 | 掲載終了日 2020/07/26
ハッシュタグ:#臆病な都市 #NetGalleyJP
内容紹介
鳥の不審死から始まった新型感染症の噂。その渦中に、首都庁に勤める若手職員Kは、いつしか巻き込まれていく……。組織の論理と不条理。世間での怖れと善意の暴走。30歳の新鋭による生々しい問題作。
組織の内部を描くという点で、物凄い洞察力を持った作家だ。
――亀山郁夫
コロナがこうなる前に書かれているというのに凄みを感じる。
――安藤礼二
「まったく、なんだってあんな根拠のないものにそうすぐ振り回されてしまうのだろう。
それとも本当に、ただ自分のあずかり知らぬところで未知の病気が広まりつつあるのではないか、とも考えてみたが、やはり実感は湧かない。
家々から漏れる灯りがそこここに生活が在ることを教えてくれる。言い知れぬ不安が、影のように自分のあとを追ってきている気がした。」 (本書より)
【著者】砂川文次(すなかわ・ぶんじ)
1990年大阪府生まれ。神奈川大学卒業。元自衛官。現在、地方公務員。2016年、「市街戦」で第121回文學界新人賞を受賞。2018年、「戦場のレビヤタン」で第160回芥川賞候補となる。著書に両作品を収録した『戦場のレビヤタン』がある。
出版社からの備考・コメント
※発売前作品のため、発売後に読まれる読者の皆様のためにも、「ネタバレ」「外部書評サイトへのレビュー投稿」は極力お控えいただけますよう、ご協力のほどよろしくお願いいたします。
※※リクエストの承認につきましては現在お時間をいただいております。
校了前のデータを元に作成しています。刊行時には内容が若干異なる場合がありますがご了承ください。
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おすすめコメント
新型コロナ感染拡大の前に書かれ、「群像」4月号に掲載、話題となった中篇を緊急書籍化。描かれているのは、現在の状況とはまた違う形で「新型感染症」に翻弄される社会です。組織の中の個人のありようが不穏かつリアルに描かれ、考えさせられる傑作です。
――担当編集より
新型コロナ感染拡大の前に書かれ、「群像」4月号に掲載、話題となった中篇を緊急書籍化。描かれているのは、現在の状況とはまた違う形で「新型感染症」に翻弄される社会です。組織の中の個人のありようが不穏かつリアルに描かれ、考えさせられる傑作です。
――担当編集より
出版情報
発行形態 | ハードカバー |
ISBN | 9784065204290 |
本体価格 | ¥1,550 (JPY) |
NetGalley会員レビュー
紙一重のディストピア。
首都丁職員Kは縦割り行政の中調整役ともいえる部署で働いていた。そんな中近隣県から鳥による感染症の疑いが報告される・・。
様々な部分で麻痺した感覚に陥りながらも観察したかのような眼で描かれる日々の業務はまさに今、現実世界で進んでる都〇内部のように感じられました。気付かぬうちに狂気ともいえる空気が市井に流れている様に戦慄を覚えました。
煙に巻かれない方がいいのか、巻かれた方がいいのか、巻いた方がいいのか・・・
都内で鳥類が相次ぐ不審死を遂げ、新型感染症の噂が広がる。
はじめのうちは「感染症は実在しない」「現在事実確認中」という言葉を盾にのらりくらりとかわし、
各部署間で責任の擦り付け合いをしていた行政も住民の声が大きくなってゆくにつれて混乱し、
「感染症はある」という方向に流れてゆく。
やがて目には見えない未知の感染症を怖れるあまり、
大衆の間には不穏な空気が流れ、異分子を排除しようとする動きが現れ始める。
正義という大義名分を得て、どんどん過激さを増してゆく大衆が怖ろしかった。
最後の方ではそれはもはや狂気をはらみ、脳内には「自粛警察」という言葉が思い浮かんでいた。
気持ち悪いくらいに今の現実と重なる世界。
だけど、驚くことにこれが描かれたのは新型コロナ感染拡大の前とのこと。
それを知って、偶然の一致(なのかな?)とはいえ鳥肌がたってしまった。
ここで描かれるのは〝未知の感染症〟に立ち向かう医師や企業を
ドラマチックに描く人間ドラマではなくて、妙にリアリティを感じさせる行政の在り様。
組織の中のルールや住民からの訴えの間で身動きをとることもできず、
対応しているのか空回っているのだか、ただただ複雑化が進んでゆくばかり。
もしかして、コロナ禍でも内部ではこんな混乱が起きていたのか?
とノンフィクションを読むような気持ちで読んだ。
鳬(けり)という野鳥の死が増え、住人達が徐々に騒ぎ出す。マスコミが動き出す。自分達の保身を第一に考える行政が嫌々動き出す。何の根拠も因果関係も無いとの研究者の声は届かない。自分も新型感染症に罹るのでは…。騒ぐ住民を黙らせないと自分の立場や出世が危ない…。こうなってくると一種の集団ヒステリーの様な騒ぎに。騒動の勃発から終息までが描かれている。真実よりも噂や、望む結果ありきの対応はフィクションだと自分に言い聞かせながら読んではいても一抹の不安が何度も過ぎる。
今そこにある危機、をひしひしと感じさせる物語だ。一つ一つは小さなことで、そのこと自体は問題となっていることに対しては正しいことである。しかし、その意思決定は役所の理屈によっておこなわれ、本質とは関係ないところで対処されていく。こういうことが積みあがっていくと、本書に示されたような社会になっていってしまうのだろう。かなりコミカルであるが、うすら寒い社会であるが、ここに描かれているテクノクラ―トやビューロクラティック、ポピュリズム、xxポリスなど、一つ一つのことは、今の日本の社会にそのまま存在する。それら今ある要素の組成を少しかえてみるだけで、ここに描かれたデストピアに至ってしまう。そんなことを強く意識することで、極めてリアルな恐怖を感じる。これは、優れた警鐘の書である。
今現在を逆手に取ったような設定で興味深く読みました。
「鳧/けり」が媒介する新型感染症。
存在しないはずの新型感染症が世間に蔓延する。
専門家は否定している感染症。
にもかかわらず、安全を証明する『ワッペン』政策が税金を投入して実施される。
『けり病』とK:首都庁に勤める若手職員の名前の妙な符合からして、なんとなく不穏でそれでいて、あ―、わかりみ深いなどと、イマドキの言葉で言い表したくなります。
一般人の行動がリアル。それ以上に、行政が誰のために、どこを向いて仕事をしているかがリアルに描かれていて、やっぱりね...と。
会議参加のための会議、役人に人件費も効率性もない、
問題が解決しようがしまいが、それも関係ない、等、役所の本質を鋭く突くフレーズに感心しました。
ただ、静かになってくれればそれでいいのだ。
ラストの『ぼくの安全と安心が保障されるのなら、他に何も要らない』の、『ぼく』=都市でしょうか。
本音をずばっと言い切った鮮やかな締めくくりはパンチ力と余韻を併せ持っていて、著者の筆力を感じました。
都内で次々発見される不審な鳥の死骸。感染症の疑いが懸念される中、対応にあたる都庁の若き職員を中心に、疑念や迷走が続く。何よりも学者の科学的検知が信用されず、人の噂が正論の如く広がっていく様、それに乗ずる如く国や行政機関の暴走的な対応は恐怖以外何者でもない。一度広まってしまったデマや流言はどんなに裏付けのある真実よりも人の心に根づいてしまう怖さを痛切に感じた。
著者についてWikiには:元自衛官、都内区役所勤務。なるほど、やはり。取材だけではこれほど緻密にリアルに、官公庁内部のできごとを描けるだろうかと思った。コロナ以前に書かれた、ことが話題になるであろう、正体不明の感染症発生の、否、発生しているかどうか、との問いも含む小説。
「おかしい、て普通わかるのに、誰も口にしないだろ」
「そういうの、藪蛇になるから言わない方がいいぜ」
コロナの、時代の今、自分でも口にしたし、もはや、よく聞くようになったこと「いちばんおそろしいのは、人間だよね」この一言に尽きる。