おおきな森
古川 日出男
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刊行日 2020/04/21 | 掲載終了日 2020/04/20
ハッシュタグ:#おおきな森 #NetGalleyJP
内容紹介
2001年『アラビアの夜の種族』
2008年『聖家族』
そして2020年――
著者渾身の超大作1600枚、ここに誕生!
小説家兼探偵・坂口安吾が失踪した高級コールガールの行方を追う「第一の森」。
記憶をもたない男・丸消須ガルシャが乗った列車で不可解な殺人が起きる「第二の森」。
そして私は小説に導かれ、京都、長崎、東北と漂泊し、手記「消滅する海」をしたため続ける。
「持てる力を全部出す。」
という言葉の意味を、初めて知りました。
――古川日出男
出版社からの備考・コメント
※発売前の作品のため、発売後に読まれる読者の皆様のためにも、「ネタバレ」「外部書評サイトへのレビュー投稿」は極力お控えいただけますよう、ご協力のほどよろしくお願いいたします。
※カバーは作成中のため、イメージ画像です。
※※リクエストの承認につきましては現在お時間をいただいております。
校了前のデータを元に作成しています。刊行時には内容が若干異なる場合がありますがご了承ください。
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おすすめコメント
ジャンルも表現形態も自在に超越する異能の作家・古川日出男さんの最新長編である本作は、持てるすべてを惜しみなく投入し紡ぎ合せた、この著者にしか書けない超大作です。先行する国内外の文学作品を多面体のように組み上げ、満州事変から現代まで、東北から南米まで時空間を行き来し、ミステリー的謎解きあり、SF的世界観ありの怒涛のリーダビリティに乗って読み進めた果てに立ち顕れる世界――。
この唯一無二の読書体験を、ぜひ最後まで味わい尽くしてください。
――担当編集者より
出版情報
発行形態 | ハードカバー |
ISBN | 9784065187395 |
本体価格 | ¥3,200 (JPY) |
NetGalley会員レビュー
記憶のない丸消須と同じように読者は、いきなりよくわからない世界に放り出されたように始まる。まさに混沌の世界。その中で厳密性を求めるように言葉を学びゆく丸消須。それに対して読者は言葉の森に迷い込んだように翻弄されていく。衒学的ともいえる認識論や坂口安吾・宮沢賢治・小林秀雄などの作家論を背景にした修辞学的議論などが、まるで万華鏡のように展開されていく。まさにカオスであり「ごった煮」だ。会話の目指すところが見えないまま、時間・空間が並行して進んでいるようでありながら、ちょっとした単語(例えば、丸太であり森や神隠しなど)が意識の中に残り3つの世界をつないでいることに気づかされる。そして、難解なメタファの山を読み解く様にメタ小説化していくパートが表れてくることにより徐々に「感じるもの」が増えていく。長い長い意識の漂流の先に現れてくる怒涛の展開は、まさにカタルシスである。
まず、800ページを超えるボリュームに仰天しました。
すごい読み応えです。
突然はじまった物語、だけど肝心の語り手の記憶は失われていて、わけがわからない。
まるで森の奥深くに迷い込んでしまったかのように、灯りを求め、手探りしながら進むしかなかった。
海が消えた世界、家族をもたない世界、人間を工場で生産する世界、
それらの聞いたこともないような不可解な構造をもつ世界に
薄気味悪さを感じながらも魅了されてしまった。
はじめは何のつながりもないように見えた3つの世界が
ページを追うごとに近づいてゆく。
満州事変の時代と現代、東北と南米、
と時間も空間も飛び越えて交わってゆく。
今、私が読んでいる「ここ」では一体何が起きてる?
これはミステリー?SF?
いつもは文字を読み、咀嚼して、頭の中でそれを描いて、
理解して、そこにある物語を自分のものにする。
だけど、本書ではそれがとても難解だった。
ここにあるのは嚙み砕き難いものばかり。
どうしよう、噛み砕かないと飲み込めない。
でも、飲み込みたい!
わからない。わからないから読んでゆくしかない。
ただただこの得体のしれない物語の結末を知りたい、読み通したい
という好奇心に引っ張られ、無我夢中でしがみついてページをめくり続けた。
900ページ弱という長編だった。
私は、読むのが早い方だが、結局、平日は4時間平均、・・・の20時間。土曜に10時間。合計30時間かかった。通常なら3冊くらい読める時間を費やしたことになる。
1時間に30ページしか読めないというのも、私にとっては屈辱である。
今週は、ほとんどネットもしてないし、テレビも見てない。余った時間を読書時間に総動員した。
今回の読書は、格闘と言っても過言ではない。疲れた。でも、読んだことに後悔はない。
読みにくいわけじゃない。
話しにまとまりがないのだ、話題が飛ぶから混乱した、こういう実験的な本はのめりこめない。だから、きつい。
まず、丸消須(マルケス)という記憶のない男が、宮沢賢治の「銀河鉄道」っぽい電車に乗っていて、そこで溺死。つまり、ありえない死体を見て、それを推理するという形からの導入であるが、その動機付けは、すぐに、忘れられるのか、よくわからない展開になっていく。
それから坂口安吾が出て来て、こちらは失踪した女性を探すだとかになっていく。
話しは連続性があるようで、そうではなく、まるで何かのだまし絵でも見せられているかのように、前に横にと物語は拡張していくのだ。
簡単に言うとタイトルのままの作品だ。
「おおきな森」なのだ。
はじめは1人だったのが、2人とか3人・・・。1つの話しが2つに3つにと広がっていく。それは大きな森ができるのと同じ過程である。
印象に残った話しを紹介します。
坂口安吾のパートなんだが・・・、この人は失踪した女性を探していたのだと思う。
「・・・アキは蒸発して、それは2か月間の蒸発だったけれど、体にもう1人を入れて戻って来たんだって・・・」
ようするに、失踪したアキに、別の心が入って戻って来たというのだ。
1つの身体に、2つの心。
「人はね、死んだらね、樹木になるんだよ」
ジュモク?と従姉妹
「死んでもね、樹になるんだよ」
樹になるのね、お父さん?
「そうだよ。だから、安心だよ」
どうして安心なの?
「その、死なないですむからさ」
その樹が林となり森となっていく・・・。
西洋音楽と東洋音楽が別れたものと認識された話しも興味深く。
それは豊臣秀吉の政治が深く関与していた。
1つの音楽という概念が、西洋と東洋にわかれる。
ゴッホは1人であり、二人である。
弟も含むという話しも興味深い。
私立探偵には助手がいる。
このように、1つの物が2つになる話しが続いていく。
呼び名と正式名とか。
だんだん、2つの話しから、3つとか、もっと・・・という話しが出てくる。
原爆が3回落ちた世界。岩手にあったイートハープがあった。これも1,2、3とあり。満州国も1,2,3とある。
さらに、架空の人物まで出てきて
物語は丸消須たちによって書かれていく。
創作によってどんどん世界は広がっていく
小説は、小説は、だから危険なのだ。と私は思った。
現在なるものを発生させてしまう。その発生源になってしまう。ゆえに不穏、ゆえに剣呑なのだ、と。
ここは第三満州国で、その土地柄は森森で、つまり、自然条件はただの1つ、「終わりのない森」の森森であって、そこを貫いている鉄道に俺は乗っていて、・・・違う、俺たちは、だ、そして乗りながら俺は、いま、この車輛で映画を鑑賞する。
ここに人間がどんどん増える列車がある、ってことは、どこかに、「人間がどんどん減らされる列車がある」を暗示する。だろ?。強制的に減らされる。つまりは、殺人だ。命名しよう。連続殺人列車がある。
「京都は3つある」だった。との断片的な想いが反響した。すると京都が実際に3つに分裂し、繁茂した。
銀河鉄道の夜(宮沢賢治)、百年の孤独「ガルシア・マルケス」、坂口安吾「イノチガケ」などの物語が、この物語に侵食し、それを飲み込み、大いなる森と成長していく。
最初に述べた通り、話しはよくからない。時間とか空間も変で、1つのものが2つに、3つにと広がっていき。小説で作品を書くように、その森の世界は膨張していき、「大きな森」となったということなのだと思う。
この本を最後まで読んだ自分を褒めてやりたい。
2020 6/20