最高の任務
乗代 雄介
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刊行日 2020/01/09 | 掲載終了日 2020/01/24
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内容紹介
第162回芥川賞候補作!
候補作「最高の任務」と中篇「生き方の問題」を収録。
生きている。書くことで――。
手紙や日記をモチーフに「<書く>ということ」を追求した傑作青春小説集!
「生き方の問題」(「群像」2018年6月号)
僕は2歳年上の従姉に長い手紙を書き送る。幼い頃からの思慕と1年前の久しぶりの再会について……。
「最高の任務」(同 2019年12月号)
大学の卒業式を前にした私はあるきっかけで、小学生の頃、いまは亡き叔母にもらって書き始めた日記帳をひもとく……。
出版社からの備考・コメント
※発売前の作品のため、ネタバレのレビュー投稿は極力お控えいただけますよう、ご協力のほどよろしくお願いいたします。
校了前のデータを元に作成しています。刊行時には内容が若干異なる場合がありますがご了承ください。
※発売前の作品のため、ネタバレのレビュー投稿は極力お控えいただけますよう、ご協力のほどよろしくお願いいたします。
おすすめコメント
著者の前著で、2018年野間文芸新人賞を受賞した『本物の読書家』は、「<読む>ということ」を問い直す作品集でした。
今回は「<書く>ということ/<書かれる>こと」を、さまざまな角度から、巧みに繊細に描きます。
帯文には、町屋良平さんに「稀代のストーリーテラーの才覚が露わに。スケールにおいてズバ抜けている。」とのコメントをいただきました。
まさにそのコメント通りの、新境地の一冊です。
――担当編集者より
出版情報
発行形態 | ハードカバー |
ISBN | 9784065186008 |
本体価格 | ¥1,550 (JPY) |
NetGalley会員レビュー
読みたいことを書くだけではない。
普通は書いていることを読む。
しかし、この本は書くことを読んでいるという、不思議な感覚になる。
書いている自分は、過去だ。
進んでいる物語は、メタ認知として現在と過去を行き来する。
『生きているために、あなたは何をしますか?』(本書p104引用)
スパイの任務を全うするなら素性は明かしてはいけない。
この本の面白いのは、2つの物語が微妙に謳歌するという点で近いことだ。
最初の物語は、過ぎていく孤独な青春賛歌。
2つ目は、自然と人間賛歌であろう。
両方に、うっすら家族の体温がある。
それらの見落としがちな細かい描写を、抜群なセンスで描く。
読みたいことを書くだけではないなぁと。
15年住んでいた群馬の、北関東の自然や風土をよく知る僕は、特にそう感じた。
「叔母離れ」できない景子。両親と弟を交えた、大学の卒業式後の食事会と一泊旅行に向かうところからは読みやすかった。両親と弟のやさしい思いが伝わってきた。
小学校5年生から書き始めた日記が回想として挿入されたり、亡き叔母と行ったハイキングの名所旧跡っぽい解説が続いたりと、前半はとりとめなさを感じた。
記すだけが証となる。
叔母との思い出を日記とともに振り返り自分をも見つめる、芥川賞候補の表題作と、従姉妹への想いを手紙に込めて自分の気持ちを確かめていく「生き方の問題」。
日記や手紙といった超私的な内面を記す様子が、背後からルーペをかざし全体像を俯瞰して記しながらも、次の瞬間一気に心の内面にルーペをあて内部の内部の部分をさらしていくようで距離感の曖昧さに圧倒される。
私は私をどこから見つめているのだろう・・
年上の従姉に振り回される僕(生き方の問題)、数年前に亡くなった叔母に心を掴まれたままのわたし(最高の任務)。どちらも、そこから逃れることができない感じが、妙にうっとおしいのです。
手紙や日記に残された記憶に、どうしてそんなにも引きずられてしまうのでしょうか?別に忘れる必要はないけれど、そこまで囚われてしまったら、自分の生きる場所は何処にあるのでしょう?
そんな、モヤモヤする気持ちが生まれた作品でした。
日記や手紙に上塗りする問いかけのこだま、反復する記憶の走馬灯──二篇の短編いずれにも真摯に思索し生きる主人公がいた。
風を読みながら【任務と問題】に私たちは日々明け暮れる。
著者の“傾向”を知るに恰好の一冊だろう。
それぞれ手紙と日記の形をとった、「書くこと」を見つめる2作品。どうも馴染めず、読むのに苦労してしまった。たぶん自分の興味のありどころの問題なのだと思う。物語、というよりは、思考を読んでいる感じだった。
手紙と日記、書くことによって描かれている2篇。書かれている。という事をうっかり忘れると、どちらの作品も過去なのか、今起きていることなのか迷子になりかねない。でも、読み進めるうちに作品の精妙さに引きこまれ、夢中になって読んでいた。「最高の任務」は、叔母との思い出を辿る旅や家族旅行での出来事に胸が熱くなり、優しさと温かさを感じた。過去を振り返り知ることで自分を見つめなおし、今を受け入れ前に進むことができるのかもしれない。そう思える作品だった。
とてもよかった。自分とは立場も年齢も性格も違うにもかかわらず、主人公の苦しみや迷い、周囲の人間の気持ちに寄り添えた。言葉にしにくい想いを、表現できていると思った。言葉が多い割に読みやすく、読みやすいながら、久しぶりに読後の充実感を味わえた。
芥川賞候補作と知り
興味を持って読んだ。
「生き方の問題」は従妹にあてた手紙
「最高の任務」は自分で書いた日記を元に
亡き叔母と出かけた場所に一人で出かけていく。
書くことで自分の心と向き合う二つの小説。
「生き方の問題」は読んでいて、「三島由紀夫のレター教室」を彷彿とさせた。
「最高の任務」は主人公の家族での位置や母との関係が今一つ
読み取れなかったのが残念。
第162回芥川賞候補作の表題作を含む、二篇からなる一冊。 「手紙」と「日記」。書くことと書かれたことを読むことについての新しい概念。 表題作より、大好きな従姉妹にエピグラフ付きの長い長い手紙を送る、という書簡体小説(ただし一方通行)の『生き方の問題』に心惹かれた。 「…いつか全てが書かれるという受身・尊敬・可能・自発を全て含んだ助動詞的確信を持って生きる僕のような者は『神様』の存在に思いを寄せずにはいられないわけだ。」(p73) 助動詞的確信!新しい言葉に出逢える幸せ!面白かった!
2つの中編。『生き方の問題』は長い手紙を長年想いを寄せてきた従姉妹に書いているもの。『最高の任務』は所々日記が入ってくる。2篇ともに『書く』という事に焦点が当てられている。従姉妹との過去の記憶、亡くなった大好きな叔母との思い出に関する記憶。『書く』と『記憶』は密接な関係性があるのが浮き彫りになっているように感じる。純文学の行間を読むのはあまり得意ではないので自分なりの解釈で好きかそうでないかの判断しか出来ないが、この作品は好き。
表題作『最高の任務』芥川賞候補作という情報に惹かれ、手に取った。読み終えて、小説は特に読書体力が必要なものだったなと改めて感じている。
『生き方の問題』は手紙。『最高の任務』は日記という、どちらも書くということ、書くことがモチーフになっている。手紙も日記も極めてプライベートな文学といっていいかと思うが、それをモチーフに主人公が他者との関わりを展開してゆくのは、著者と読者の関係のようでもあり興味深かった。
しかし、過去から現在、過去の事実と現在の推察などが入り混じり、その境が私には曖昧で、理解が追いつかない部分も多かった。著者の知識の深さと筆力を感じたが、読後は消化不良な感じが残った。芥川賞の候補になるような文学というものはそういうものなのかもしれない。