雲を紡ぐ

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刊行日 2020/01/23 | 掲載終了日 2021/02/10

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内容紹介

ホームスパンの聖地盛岡を舞台に愛を紡ぐ物語

家出をした高二の美緒は盛岡で毛織物の工房を営む祖父の家に駆けこむ。雲を紡ぎ、光を染め、風を織る中で少女は希望を見つけていく。

ホームスパンの聖地盛岡を舞台に愛を紡ぐ物語

家出をした高二の美緒は盛岡で毛織物の工房を営む祖父の家に駆けこむ。雲を紡ぎ、光を染め、風を織る中で少女は希望を見つけていく。


おすすめコメント

著者の伊吹さんからコメントをいただきました。


長い時を越え、愛されていくものに憧れと尊敬の思いを抱いています。盛岡でつくられている「ホームスパン」という服地は、親、子、孫の三代が着られる、まさに「時を越える布」。真っ白な雲のような羊毛をすべて手仕事で染め、紡ぎ、織りあげた布の上着やコートは着れば着るほど人の身に添い、軽くて温かい着心地が増していきます。時代の流れに古びていくのではなく、熟成し、育っていく布。その様子が人の生き方や、家族が織りなす関係に重なり、この「雲を紡ぐ」を書きました。美しい風景が広がる盛岡を舞台に紡いだのは、熟成し育つ布・ホームスパンをめぐる、親子三代の心の糸の物語です。

著者の伊吹さんからコメントをいただきました。


長い時を越え、愛されていくものに憧れと尊敬の思いを抱いています。盛岡でつくられている「ホームスパン」という服地は、親、子、孫の三代が着られる、まさに「時を越える布」。真っ白な雲のような羊毛をすべて手仕事で染め、紡ぎ、織りあげた布の上着やコートは着れば着るほど人の身に添い、軽くて温かい着心地が増していきます。時代の流れに古びていくのではなく、熟成し、育って...


出版情報

発行形態 ハードカバー
ISBN 9784163911311
本体価格 ¥1,750 (JPY)

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NetGalley会員レビュー

「私は糸を紡ぐ。祖父の思いも祖母の思いも。そして、それは、家族をも紡いだ・・・」
ストーリーテラー、伊吹有喜は、物語の進め方が非常にうまい。導入部分からテンポよく物語の中に引き込んでゆく。つづられる物語はとても淡々とはしているが、心に刺さる場面が多い。登場人物の言葉遣いも妙である。人物の人格が言葉遣いに顕れる。特にこの作品の祖父「紘次郎」や父の従弟の「太一」など、微妙に性格がにじみ出るような言葉遣いである。
もしかしたら、この言葉を書きたいがための人物設定なのかと思うほどである。
伊吹氏の他の作品にも共通するが淡々と物語が進み、その場面の所々に、ホッとする、ジンとくる部分がある。これがおそらく、伊吹氏の作品の魅力だろう。私はこれらの作品が大好きだ。

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みんな迷う。どう進んだらいいのか、これまで進んできた道が間違いではなかったか。
家族であっても、言いたいことが言えないことはある。うまく言葉にできない。わかり合いたいけど難しい。
自分がつぶれてしまう前に逃げてもいい。苦手な相手からは離れてもいい。迷っている間は選ばなくてもいい。
追いつめられてしまった美緒がたどり着いた場所で祖父に教えられた多くのもの。

子供はいつか親の元を離れる。
その時私は何を思うのだろう。

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タブレットで読み終わったばかりですが、本としての重さや質感を感じながら読みたいと思いました。それほどものの手触りの描写が多くなんだか五感を刺激されてしまいました。そして作品に出てくるお店や美味しそうなものたち。盛岡に行きたくなります。

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想いが紡がれ、気づいたら涙が流れていました。
自分を表現することが苦手な美緒は衝動的に父方の祖父が営む毛織物工房に家出をしてしまう。寡黙な祖父にとまどいながらその手から織り出されていき布の色、手触りに触れ、また亡くなった祖母が織ったショールに触れながらある想いを募らせてゆく。
娘・美緒と祖父と同じように寡黙な父・広志の視点で描かれている不器用な家族の物語。
言葉が足りなかったり、鋭い言葉をぶつけ合い傷つけ合いながらも、真意に気づき想いを新たにする様子が、自由に形を変えゆく雲のようです。
祖父から孫・息子への想い、孫・息子から祖父への想いが繋がり紡がれゆく様に気づいたら涙が流れていました。
昼間は雲を眺めながら、夜は宮沢賢治の世界に浸りつつ星空を見ながら読みたい作品。

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高校生活に馴染めず、両親にも本音を言えず、主人公はある日祖父の住む岩手盛岡へ誰にも知らせずに向かいます。
ずっと疎遠だった孫が突然現れても祖父は何も言わずに受け入れ、そのまま主人公は盛岡での生活をスタートさせます。
祖父や叔母や再従兄妹との工房での生活の中で、いじめに遭い閉ざされたままで思う事さえできなかったこれからの自分について考えられるようになった主人公は、祖父の生業であるホームスパン(羊毛布)製作の修行を始めます。

読了後、先ずしたのはホームスパンについてでした。
名前くらいは知っていましたが、こんなに素敵なものだとは知らず、その存在に魅力されました。
そんなホームスパンを織る主人公の祖父と祖母の職人としてお互いを認め合い尊敬する気持ちを思い出すと今でも涙が出てきます。
想像の中で生み出された二人だとしても憧れてしまうひとたちです。
職人として、一つのことを極めたひとの一言一言は重みがあって胸に響きました。

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刈り取られたままの羊の毛は、汚毛という茶色の糞のついた、汚く臭い毛の塊だ。その汚れや脂を洗い落として、雲のような真っ白な毛にしてゆく。機械と化学薬品を使ってこの作業をしたものと、手で丁寧に洗ったものは、洗いあがったときの感触が全く違うのだという。ホイップクリームのようなふわふわでやさしい手ざわりの、手洗いの羊毛の雲。そこに顔を埋めたらどんなに気持ち良いだろうか、想像するとたまらなくその毛で作られた織物に触れてみたくなる。

盛岡で手作業で羊毛を紡ぎ、ホームスパンと呼ばれる布を織り上げている工房、山崎工藝舎が物語の舞台。そこで色の設計や染色を行う山崎紘次郎と、東京から家出同然に転がり込んだ孫の美緒。学校でいじめにあい、家庭でも両親とうまくいかず、思い余って東京の家を飛び出したのだ。そして祖父と両親もまた、過去が原因ですれ違ったままだった。
けれど、紡がれた糸が、祖父と両親と美緒の間を少しづつつないでいく。切れた糸はまたつながる、新しい羊毛と撚りあわせて、何度でもやり直すことができる、小説の中で語られることばが胸に響く。

宮沢賢治がモーリオと呼んで愛した、盛岡の空気と緑と水と、その地に根付くひとびと。東京から離れてゆっくりと流れる時間。急かなくてもいいんだよ、ゆっくりと自分のやりたいことをやりなさい、街全体がそうやって美緒を見守っていてくれるようだ。時は止まってはくれないけれど、時として残酷に過ぎるけれど、でも止まって考える時間も人生にはきっと必要なのだ。新しい道に踏み出すために。

読み終わった後に表紙をふと見ると、本の中にぬくもりが宿ったような気がして、羊たちと赤い装いの少女の姿をそっとなでたくなった。装画はわたしの大好きな牧野千穂さんの手によるもので、やわらかなタッチがこの本にとてもしっくりとくる。物語のなかで出てくる「丁寧な仕事」という言葉と共鳴するようなすてきな絵だと思う。冬に読みたい大好きな一冊が、また増えた。

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ふわふわの「雲」は切れたり繋いだりを繰り返して強く美しい糸になる。そして長い時間をかけて一枚の布になる。
家族もきっと同じだ。最初は形なんてない。付いたり離れたりを繰り返して時間をかけてゆっくり家族の形を紡いでいくんだ。不恰好でも多少歪んでも。
包まれれば柔らかくてちゃんと温かい。
おじいちゃんとの短い暮らしはこれからの美緒の人生の指針となるのだろう。物語のその先の日常を追いたくなる作品だ。

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羊毛の匂い、鮮やかな色。
糸を紡いで、布を織る。
人間関係や進路で悩む美緒と、人生の後半を静かに過ごす祖父。
2人で作ったホームスパンのショールが、私は欲しくてたまらない。

蒔かれた種は豊かに芽生え、時に大人の想像を超えていく。
人生は、無限大だ。

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これは…とんでもなくいい本に巡り会えました。読めてよかったです。

あらすじの設定や背景に目新しさはないのに、ぐんぐん引き込まれていくし、予期せず何度も涙が頬をつたっていました。
読み終わった後の余韻が凄くあたたかい。幸せな時間をありがとうございました。

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不登校の美緒は大事にしていたショールを母親に取り上げられ、岩手県の祖父のもとへ家出をする。
そこでホームスパンに触れ、工房の人たちと出会い、美緒は少しずつ自分の進む道を見つけていく。美緒の成長物語であるとともに、家族の物語でもあった。
私と年が近いのは美緒なので、どうしても美緒に自分を傾けながら読んでしまう。
そして、親もその親の前では子供なんだなあと当たり前のことを思う。
きっと親の世代が読むのと私が読むのとでは、感じ方がまた違ってくるのだろう。

私なら、何色のショールを作るだろう。
どんな願いを託すだろうか。
色の描写が丁寧で、色彩が目に浮かぶようだった。羊毛を手作業で洗うように、時間をかけて修復していく家族関係。かけた手間隙の分だけ、最後にはやさしくあたたかなものができる。
美緒はもう、この家族はもう、大丈夫。

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中島みゆきの「糸」が、ふいに浮かんだ。まるで清らかな光を編み込んだかのように、まぶしくて何か透き通ったものに包まれていく。不登校の少女が祖父のもとでものづくりの世界と廻り合い、少しずつ成長していく姿に目頭が熱くなる。祖父から孫へ、父から娘へ、母から娘へ。いくつもの矢印が絡みあい、やがて家族という〈糸〉を織り成していく。もし自分だったなら、どんな色に染めあげたいと願うだろうか。ふと、そんなことを思ってしまった。静かに心に沁みこんでいく、親子三世代にわたる物語。

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いい物語だった。読了後しみじみとそう思った。いじめで引きこもった美緒。母とは険悪、父とも会話はない。祖母の干渉も煩わしい。母との喧嘩を機に岩手のホームスパンの職人である祖父の元を訪れる。岩手の自然と羊毛から糸を紡ぎ織物を作る作業に惹かれた。家族の切れた絆を繋ぐ過程を重ね、ゆっくりと再生していく姿に心が温かくなる。こじれた親子、夫婦のやりとりの描写はリアルに痛々しい。だからこそ希望が見えたラストに胸を打たれた。いつか岩手で工房を訪れたい。

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ゆったりとした時が流れる優しい物語。
雲を紡ぐってどういう意味だろう?って思っていましたが、最初は雲のようなふわふわの羊毛を紡ぐのかと思い、その後夢と希望、人々の想いなども全て包んで紡ぐのだとわかりました。
自分の気持ちを言葉にするのが苦手な、
不器用ともとれる家族の物語。

盛岡の風景、食べ物、街の様子なども目に浮かぶようで、1度訪れてみたいと思いましたし、私もホームスパンのショールが欲しくなりました。

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母と娘。父と娘。母と父。母と息子。父と息子。祖父と孫。祖母と孫。
さまざまな家族の関係が描かれます。
描かれる関係のいずれかはきっと誰かにも当てはまる。

家族というのは時に悩ましく、でも本当に愛おしいもの。
祖父の美緒への眼差しは常に優しくて、私も祖父の瞳を思い出しました。

読み終えて、改めて表紙をめくる。
だからなのか、と。
なんとも言えない余韻が心地よかったです。

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