永劫回帰ステルス
九十九号室にワトスンはいるのか?
若木 未生
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刊行日 2017/07/19 | 掲載終了日 2018/02/28
内容紹介
春から大学生になる秋太郎はサークル棟九十九号室「仮面応用研究会」へと足を踏み入れる。そこは荒れ果てた部屋の主、北見行(きたみ・こう)が独占専有する謎の哲学研究サークルだった。いかにも変人めいたコウに興味を持ち秋太郎は入部を願い出るが、一切拒否される。強引な交渉を続けようとしていた秋太郎は、サークル棟内部で不可解な男子学生の死体を発見する。ところが一瞬にして死体が消失。
「死体は、いかにして存在するのか?」
かくれんぼ、逢魔が時、幻覚。実存するのかどうか曖昧なコウの兄らしき謎の人物が暗躍する。消え去った死体をめぐるコウの心理学的見地からの推理が冴える。
おすすめコメント
ハイスクール・オーラバスター、グラスハートなど全ての著作で少女をとりこにしてきた若木未生の完全新作が始まります。著者が数年あたためてきた哲学・心理学・精神医学をテーマに、「存在」とは何かを問う――大学生をホームズに見立てたミステリに仕上がりました。
しかし実はこの主人公であり「探偵役」であるコウは、一人では存在し得ません。ワトソンは必要なのか、何故?
執筆前、精神の深淵について「答えを見つけたかった」と言っていた著者と一緒にぜひ、一つではない答えを見つけてください。
出版情報
ISBN | 9784062940825 |
本体価格 | |
NetGalley会員レビュー
天才のもつ「いびつさ」に注目です。
いいかんじに壊れたホームズ役の来見行(キタミ・コウ)に、なぜか惚れ込んで、嫌がられているのにちょっかいを出しつづけるもう一人の主人公、鏡秋太郎(カガミ・シュウタロウ)。彼がこの推理チームのワトソン役におさまる、そのきっかけとなる、ちょっぴりオカルト風味な哲学&心理学的推理ストーリー。
この二人のキャラの立ち方がもう最高です♪
わたくし、個人的に「壊れた天才」は大好物なもので、冒頭からコウ君に熱烈アピールをつづけるカガミ君に感情移入です。そして、カガミ君自身の過去、ちょっと奇妙な性格の成り立ちにもなにやら暗い影がありそうで、これまた興味を惹かれます。本筋の推理と合わせて彼の過去を見つけ出していくコウ。二人と事件を結びつけるきっかけが・・・と、このあたりでご飯三杯はいけましたです。
キャラクターの魅力だけでなく、難しげな哲学や心理学的分析も美麗な文章と展開でぐいぐい読ませるのはさすが。
これは毎エピソードが楽しみな、期待の新シリーズとなりそうです。
まるでバベル崩壊以前のように言語も記号も一緒くたに平等にもって語られる謎解きがなんだか新鮮で面白かったです!
キャラクターが魅力的、
秋太郎くんの抱えているものが気になります!次巻へ期待です!
哲学、心理学、民俗学などたくさんの要素が盛り込まれた謎解きは難しいと思いながらハマっていってしまいました。兄弟のこれからと新たな謎解きがたのしみです。
猩猩緋色の逢魔が時「まあだだよ」「murderだよ」。現実と異界のあわいで、ぐるぐると回り回る終わらないかくれんぼ。反復、円環、永劫回帰。ステルス。境界。さまざまなメタファーや哲学と心理学用語、ミスディレクションに目をくらまされていた。なるほど、殺人事件ならぬ『殺・主観的人格・事件』か。死者も生者も、文字通り境界の人も、掴みどころのなさが気になっていた秋太郎も、再読すると……ああ、これは確かに怖いや。ワトソンは「必要(い)る」のか「存在(い)る」のか。次の謎を楽しみに待とう。おもしろかった。
登場人物のエッヂの効いたキャラの立て方、独特の文体、最初はとっつきにくいかもしれませんが、少し読み進めるとこれが癖になります。直後に普通の小説を読むと物足りなく感じるくらい。しかし、このきらびやかな体裁に騙されてはいけません。物語の根底には友とは、他人とのコミュニケーションとは、といった骨太のテーマが一本通っています。これが最後にじんわりと登場人物のみならず読者も包み込んで、とてもいい読後感が残ります。シリーズものになるとほぼ宣言されていますので、今後が楽しみです。次回作はさらなる謎解きの物語を期待しています。